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「ありがとう トニ・エルドマン」(2016)

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本作、本年度米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。不感症気味な人も笑うという面白い作品。監督は、3作目の本作でカンヌ映画祭で評論家から絶大なる支持を得たというマーレン・アデ女性監督(41)。わたしどもの地方ではやっとの公開です。

ルーマニアで働くバリキャリ女子の娘。娘を心配してドイツから訪ねてきた風変わりな父親との触れ合いを描いたものです。
こんなキャリアのある娘に、この親父さんが何を心配しストーカーまがいなことをしなければならないのか。そしてこの作品の尺が162分と、なぜこんなに尺を喰うのかというのも興味がありました。
鑑賞してみて、この作品は「人間の幸福とはなにか」を問うていて、ここでは労働というものをどう考えるかという親子の物語の奥にある問題こそがテーマ、これは我が国でも深刻な問題です。抱腹絶倒に値するこの作品を観て“長い”と感じる人は笑えない自分は“ワーカーホリック”と考えた方がいいのではないかというリトマス試験紙だと感じます。()

親父ギャグのほかに、これでも笑わないかと、とんでもないネタも出てきます。()作品の終盤でホイットニー・ヒューストンの「CREATEST LOVE OF ALLを親父のオルガン演奏で娘が涙して熱唱するシーンでこの物語の訴えたいことのすべてが読み取れ、大泣きします。そしてラストのヌードパーテイに大笑い!!
笑のなかに、ドイツの労働事情やユーロへの思惑、ルーマニア経済などをそれとなくパロッているのも面白いです。

出演は、ギャグ親父ヴィンフリート兼トニ・エルドマンはオーストリアの名優ペーター・ジモニシェック、日本なら西田敏行さんです!そして娘イネスはドイツ映画祭金熊賞を受賞しているザンドラ・ヒューラー、身体でぶち当たる演技は寺島しのぶさんです。()
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物語は
冒頭、アパートの玄関に車が停車。誰も出て来ない、なんでと思っていると「届けもの」と宅配便の男の声。出て来た男ヴィンフリートは「弟が注文したかな?アメリカ帰りの勝手なやつ」と引っ込み「起きろ!」と声がして、しばらくして、ペースメーカーを着けバナナを喰いながら「アダルトビデオだろう」と出てきます。弟なんかいやしない、悪戯好きで人を驚かすのが趣味な人。こんな調子でギャグが続きます。イメージ 3
彼は元音楽の先生、妻とは死別しているらしい。いまは家で近所の子らに音楽を教えていますが「もう辞める」と言われる。母親を尋ねると「安楽死させたらどう」と言われ「できない」と断り弱った老犬を預け老人ホームで歌を教えるアルバイト。安いユーロに文句をつけて、最後の教え子たちと変装してお別れ会を終え帰ると娘イネスが勤め先フブカレストから帰省している。しかし、携帯電話で仕事のはなしばかりで会話がない。
こんなときに愛犬が亡くなり、庭で添え寝し「どうしようか!」と考えます。彼が次の行動を考えるシーンでは、間を置いて、観る人に考える時間をくれます(これがドイツ人の思考か?)。尺が長くなるひとつの理由です。
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親父ヴィンフリートは驚かせようようと、よれよれの服装に出っ歯をつけて、連絡もせず娘の会社のロビーで彼女を待ちます。しかし、彼女は気付かず通りすぎてしまい、帰ろうとすると助手のアンカ(イングリッド・ビス)がやってきて携帯電話を渡されこれで話すことになった。()「今夜アメリカ大使館のレセプションに一緒に行こう」と誘われます。決して仲が悪いのではなさそう、結構親父想いの娘さんです。仲がわるそうに見えるのは・・・。
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このレセプションでも娘イネスは顧客と仕事の話しばかり。うんざりのヴィンフリートはこともあろうか彼女がいま商談を進めている石油会社の取締役ヘンネベルク(ミヒャエル・ヴィッテンボルン)と話すことにした。「娘の代替えを頼んでいるんだ」と話す。取締役はこの言葉に誘発されてイネスに「アウトソーシングで仕事をしたい」と言い始める。これで父娘の関係が最悪になる。
翌日、市内を案内してもらうが、途中で、イネスは取締役の奥さんの買い物にお付き合い。ヴィンフリートはひとりでスケート場を見学、バッグ店を覗いて過ごします。(帽子は母の趣味)
朝、疲れたイネスを起こさなかったことで言い合う。ヴィンフリートは「お前は元気だと言っているが本当にそうか。生きているか」と聞きます。ヴィンフリートはベッドに悪戯をして「ほっとけないよ!」と言葉を残して帰り始め、エレベーターの中で“考えます“。
日本の親父なら「この時世、娘とはこんなもんだろう」と帰るところでしょうが、ドイツの親父さんは違う。考える親父さんなのです!()
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イネスは取締役ヘンネベルクとの取引をどう進めるかをしっかり考えて、迎えにきた車のなかで、上司・同僚男子社員と打ち合わせしながら、ダックオイル社に着きます。ところが親父の悪戯で爪を剥がし大騒ぎ。これが祟ったのかしっかりブリーフィングしたのに採用されない。上司ゲラルド(トーマス・ロイブル)は「よくやった」と評価してくれる。恋人テイム(トリスタン・ビュッター)が「約束あるか?」と聞いてくるが断り、レストランでの女子会に参加します。
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ここで、最近の出来ごと「父が訪ねてきて最低だった。座り込んで人生なんか聞くのよ!」と話していると変装したヴィンフリートが「酒飲む?飲み切れない!」と現れ「私はトニ・エルドマンだ」と自己紹介。そして職業はコンサルテイングコーチ、専門は人生だと言い女性たちと盛り上がります。リムジンを待たせてあるとイネスを誘うが「いや!」と刎ねつけられます。
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エルドマンは、イネスが上司と会社の屋上で言い争いをしているとところに、ブーブークッションで大きなおなら音を出し、すまなさそうに立ち去る。なぜこんなことをしているのかと気になります。
ついにイネスは携帯で「私を駄目にする気」と電話します。「電話くれ」とエルドマン。
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今日のイネス、ラフな装いでホテルに恋人を尋ねます。ブカレストの町を見下ろす部屋でキッスからはじまり、彼が「君は仕事に差し障るからやらないというから、やるんだ」と挑みかかる。「まだ気分がのらない」とイネス。「ひとりでやって!」と届いた菓子を食べ始める。とんでもない修羅場を見せてくれます。これは笑えなかった。かなり心が痛んでいるようです。()

イネスは彼とパーテイに参加していると、そこにエルドマンがいる。彼が職業を聞くと「BMWのセールスマンだ」という。居合わせた夫人には「私はドイツ大使のエルドマンだ」と言い、イネスを秘書だと紹介している。
エルドマンが薬(ヤク)を渡すが、イネスは「要らない」と断る。いろいろと娘を心配して試しているようです。次に、ちょっとわけありのラリっている客がいるクラブに誘う。イネスはシートで休んだあとひとりで自分のアパートに帰ります。
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次の朝、エルドマンはプレッツェルを4コ買って合鍵でイネスの部屋に入り、寝ているイネスに「薬のことで」と手錠を掛けます。自分の腕にも。ところが鍵が見つからない。なんたること!()
イネスにとって今日は現場を視察する日、車が迎えにくるがこれではどうにもならない。ふたりは手錠でむすばれたまま車に乗り、鍵屋のところに。()
しかたがないとイネス、エルドマンを伴って現場に出勤。相手担当者に「ロシアのプロゼクトを担当しているもの」と紹介します。ロシアの専門家?、これが面白い。
現場で「廃止する坑井だ。人工採鉱法だ」と説明を受けます。エルドマンがパイプから濾出している油を見つけ「これは危険だ」と声を上げる。
従業員が「解雇してくれと頼んでくれ。解雇されたら私が助かる」と訴える。現場の担当者はこれを聞いて怒り出します。・・イメージ 11
ここでエルドマンが大便のため森の中に。そこに従業員がやってきて便所に案内され、そこで見た便器がとても近代化されたもの。帰って来たエルドマンが従業員に「ユーモア忘れるな!」と言う。イネスが「ユーモアってなによ」と聞くと「お前は完璧屋だ」と。()

視察を終えての帰り、イネスが車で寝込んでしまいます。ここでエルドマンこと親父さんが“考えます”。イメージ 12
パーテイで出会った夫人のところを訪ねます。ちょうどイースター祭の準備をしているところ。イネスに卵に絵づけをさせるが出来ない。みんなに助けてもらって完成させ喜んでもらいます。帰りにお礼にとエルドマンがオルガンでホイットニー・ヒューストンの「CREATEST LOVE OF ALLを「子供たちはわたしたちの未来なのだから、しっかりと教え導いて信じる道を歩ませましょう。・・」と歌うよう促します。
イネスは唄いながら次第に声が大きくなり涙を流します。親と娘がこれまでどう暮らしてきたか、親は何を望んでいるのかが分かります。
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自宅に戻ったイネスは、自分の誕生日パーテイに会社の同僚を招いて祝うために、部屋を花で飾り、ケータリングを並べ、ドレスを着る。がドレスのチャックが閉まらない。フォークを使って上げようとするが無理。いらだちを募らせたイネスは、せっかく着たドレスを脱ごうとするがタイトなドレスは脱ぐのも難しい、“もう、どうにでもなれ!”と、全裸で来客を迎えます。上司のゲラルドも、来る客すべてがヌードになるというおかしみ。笑いました!!
めんどくさいものを捨てて、自分のもので生きてみなさいという唄のとおりの行いです。
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そこに大きな毛だらけの縫いぐるみが祝いの花を持ってやってきます。内はエルドマンです。
娘の裸を見て驚いて帰り始めます。イネスはこれを追っかけて抱きつき「パパ」と。

おばあちゃんが亡くなり葬儀にイネスがやってきます。イネスは希望がかなって香港勤務になると言う。これを聞いて、ヴィンフリートがブカレストで話した「生きろ!」を説明します。イメージ 14
みんな成果ばかり気にして義務に追われている。時間に追われて人生終わるよ!自転車を練習してたお前、バスを待つお前を思い出す。最近よく思い出す。あとで大切さが分かる。でもその瞬間はわからない」と言って聞かせます。
イネスは父の胸のポケットから入れ歯を取り出し自分の歯につけてみる。出っ歯のイネスがにんまり微笑みます。「みなさん、元気に、生きていますか。」
 
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