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「散歩する侵略者」(2017)

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黒沢清監督作品。原作は前川友大さん率いる劇団・イキウメの同名舞台劇。原作は未読です。長澤まさみさん、松田龍平さん、長谷川博己さんらの注目俳優が出演。前川さんの映画「太陽」2016)を観ていて、黒沢監督がどう前川さんの世界を描くのか、俳優さんたちの演技に注目していました。
 
人間に乗り移り、地球人の調査にやってきた、たった3人の宇宙人。宇宙人は「人の概念」を奪い、奪われた人は永久に概念を失い概念を理解できなくなり、世界が大混乱へと向かう。宇宙人の活動、乗り移られた夫と妻の夫婦の行方、宇宙人たちを記事にしようとするジャーナリストの行動が描かれます。

たった3人の宇宙人が小さな日本の街にやってくる、なんだこの人をバカにしたような設定は?これは舞台劇、どこからどうやって来たなどどうでもよくて、彼らの行動に焦点を当てた描きかたで、立派な宇宙人物語になっているというところが凄い。
 
ここでは地球には存在しない兵器など出てこないで、「概念を奪う」という手段で人はどう変化するかを描き、概念とはなにか、最も大切なものは何かを問い、現代社会への警鐘を発するというスケールの大きな作品です
 
作品には笑あり、アクションありで黒沢監督のこれまでのイメージとは違っているように見えるのですが、夫が奪った概念で起こる夫婦愛や精神異常者(宇宙人)、これへの接触で取り込まれていく男の描写は、「クリーピー偽りの隣人」(2016)に近い。愛の概念を通じて夫婦の愛が正面に据えられることでよりエンターテイメント性の強い作品になっています。

宇宙人に乗っ取られた夫・松田さんの無表情でユーモアや、やさしさのある演技。妻の長澤さん、怒ってばかりですが、なにがあっても夫を守ろうとする演技。ジャーナリストの長谷川さんの狂ってぶち切れる演技。そして宇宙人の恒松裕里さんの切れのあるアクション。すばらしいものでした。一見難しい、観た後で、じわりと作品のテーマが伝わってきます。
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冒頭、女の子が金魚掬って家に持ち帰る。母親(?)がちょっと顔を見せてドアーを閉める。(嫌な音)カメラが部屋に入ると、室内は血の海。女の子は全身に血を浴び、自分の手を見て、舐める。金魚が床に刎ねている。めちゃめちゃに怖い!イメージ 2
あとで分かるのですが、この子は宇宙人立花あきら(恒松裕里さん)。あきらは両親に金魚のことで責められ、暴力という概念を奪ったのでしょう。このあと、道路をふらふら歩いていて、これを避けようとしたトラックが衝突事故を起こし交通渋滞に。本人は警察に保護され、病院に収容される(監視付)。

宇宙人:加瀬真治
数日経って、不仲な夫・加瀬真治(松田龍平さん)が妻・鳴海(長澤まさみさん)の元に、何事もなかったよう帰ってくる。浮気でもしていたんだろうと「何があった」と聞くと車にひかれたという。病院に連れていくとアルツハイマーだと診断される。病院をでるとへたり込んで「申し訳ない」とこれまで聞いたこともない言葉を口にする。へたるのは、宇宙人に乗り移られ通常の状態に戻るまでに、すこし時間が必要らしい。家でごろごろして仕事に行かず、散歩してくると出かける。あとをつけると草むらに寝そべっている。おかしい!
 
鳴海の妹・明日美(前田敦子さん)がやってきて、「家族は大切よ」と話すのを聞いた真治が「家族の概念」貰ったと額に人差し指を当てると、明日美はへたり牛のように座り込む。そして、「もうお姉ちゃんなんか関係ない、自由になった」と出ていく。
明日美は家族の概念を無くして家族崩壊、一方「家族の概念」を奪った夫はすこし人間に近づいてくる。
こうして人間社会は次第に崩壊していくことになる。立花あきらの殺人事件にも匹敵する恐怖が描かれるのだが、これに気付かないところが恐怖なのです。作品は、これを訴えている。あなたの隣に宇宙人がいたらと・・
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真治は次に友人・丸尾(満島真之介さん)から家のことで揉め「所有という概念」を奪う。奪われた丸尾の運命は・・。
しかし、犬に追われこいつの概念は奪えない。真治は鳴海に「ガイドになってくれ」と頼む。
真治は次第に人間らしくなり「ご飯が美味しい」と言い出す。鳴海は広告デザイナーの仕事をしていて、会社社長・鈴木(光石研さん)に、仕事を渡すことを条件にセクハラを迫られる。真治は鳴海をつけて会社に乗り込み、鈴木から「仕事の概念」を奪う。鈴木は仕事を放棄して紙飛行を飛ばして遊ぶ状態。()
鳴海が「仕事がなくなると困る」と真治に抗議すると「おれ宇宙人なんだ。いろいろな概念を貰って新しい真治になっている」というが、鳴海には理解できず「どっちでももういい」と鳴海は真治に愛情を見出していく。
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ジャーナリスト・桜井(長谷川博己さん)
桜井は米軍基地の取材を申し込んでいたらしいが、断られ記事に困って付近で起こった猟奇殺傷事件を取材することに。警備の警察官は全く対応してくれないところに優しそうな宇宙人・天野(高杉真宙さん)が現れ「おれのガイドになって欲しい」と言う。自分は宇宙人で地球の侵略にやって来たと話す。これは面白いと桜井は引き受ける。
天野に家族を紹介される。彼等はへたり牛のようになっている。何をしたかと問うと「人間は言葉に頼るがその表の概念が大切で、自由という概念を奪った。100年ぐらいで人類は死滅する」という。
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桜井と天野は立花が入院している病院を訪ねると、警護している車田刑事(児島一哉さん)が「お前らは他人だ」と面会を拒否する。面倒くせえやつと立花は強烈なキックを喰らわせると、「自分と他人をはっきさせろ、俺は他人ではないぞ」というから「自分と他人の概念」を天野が奪う。

桜井は天野と立花の活動拠点(ガレージ)に送り届ける車のなかで、密着記事を書かせて欲しいと申し出ると、「もうひとりの宇宙人の情報を集めて欲しい」という。
ガレージにつくと、通信機をつくるので部品を買ってきて欲しいと依頼され、店にいくと厚生省の役人・品川(笹野高史さん)に出会い「新型ヴィールスの感染者が急増しているので万一異常を感じるときには連絡するように」と携帯GPSを渡される。
 
町で自衛隊の姿を見るようになり、不穏な空気が出始めている。警官隊が、突然ガレージに、立花逮捕にやってくる。立花が車に隠していたマシンガンで撃ち殺してしまう。ここでは、見事な銃撃戦を立花・杖松さんが見せてくれます。凄い!
桜井が「暴力はいかん」と退避することを勧め、三人は逃げ出す。
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真治と鳴海も街中を歩いていて正体不明の輩に追われる。真治目当てで追ってくるが鳴海は意に会しない介しない。教会で牧師(東出昌大さん)に「愛とは何ぞや」と教えを乞うと「愛はあなたの内にあります。寛容で親切、ねたまず、利益を求めず。すべてを我慢し耐え忍ぶことです」と教わる。鳴海は真治が宇宙人でも愛すると結婚への原点回帰です。(#^.^#)
鳴海は「この言葉に嘘はない、これを奪ってはならない」と、真治を連れて町をでることにする。
 
退避している途中で、桜井らは警察隊に襲われ、原因は桜井がもつGPS携帯だとわかり、桜井は「俺は狙われている」と宇宙人に味方するという。が、密かに真治を訪ね逃げるよう促す。これを知った天野と立花が桜井を探し出し問詰める。
鳴海と真治はもう一度やり直すと車で逃げ出す際、立花がこれを阻止しようと車に飛び込み即死。
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桜井は公園で「こいつ(天野)は普通に見えるが宇宙人だ、地球を侵略にやってきた。こんなことを考えることが起こっている」と大声を警告するが、誰も振り向きもしない。これを見て、桜井は「気が済んだ」と大野に声をかける。桜井は一体どうなってい
るのか?
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桜井と大野は、宇宙基地に通信するため某工場跡地にやってくると、警察隊に待伏せされ銃撃戦になる。大野が撃たれ亡くなる寸前に、桜井の身体に乗り移る。桜井が通信を終えると、爆撃機が襲ってくる。マシンガンでこれに反撃、最後に石を投げる。()() ここでの長谷川さんのよたれ牛の熱演は見事です!!
 
鳴海と真治は、ホテルで、地球最後の日を待っている。鳴海が「どうせ死ぬなら先に私の首を絞めて殺してちょうだい」と急かすが、鳴海はできないと断る。「ならば私が大切にしている“愛という概念”を奪って!私を信ちゃんにあげる」という。イメージ 8
真治は鳴海の額に指をあて奪う。ふたりは宇宙人の来着を見ようと荒れる海の断崖に立つと、空が真っ赤に燃え、強風に晒されたが宇宙人はやって来なかった。

2年後、真治が入院している鳴海を見舞う。女医(小泉今日子さん)が「何故、宇宙人は侵略を止めたのかわからないね。地球に来て賢くなったんじゃない。このタイミングだったことに意味があると思う。人類は山のように問題を抱えているから、それを一から考えて、また来るの?」と話し掛ける。
鳴海は無表情でベットに座っている。「鳴海さんのような症例はない。未来を信じましょう」と医師に言われ、真治は「ずっと側にいよう。最後まで」と誓うのでした。涙です!平和ボケの日本に対する警告だと受け取っています。
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