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「ユリゴコロ」(2017)

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原作は沼田まほかるさんの同名ベストセラー小説。脚本・監督は熊澤尚人さん。出演は吉高由里子松山ケンイチ松坂桃李佐津川愛美清野菜名・清原果耶・木村多江さんらです。
原作は、大藪春彦賞受賞作で、「このミステリーがすごい」で5位にランクイン“まほかるブーム”の火付け役となった作品。吉高さんが人を殺すことに心のよりどころを求める殺人者役で、「ヒメノアール」で怪演の佐津川さんが出演です。原作人気、出演者で、これは観なければと楽しみにしていました。原作は未読です。かなり変更されているとのこと。

作品は、ホラー・ミステリーと紹介されていますが、圧倒的に「愛の物語」になっています。「ユリゴコロ」とは、人が生きていく上で欠かせない、誰しもが持つ「心の拠り所」で、これが何であるかという結末に圧倒されます。

イメージ 2ペンション&カフェを営む亮介(松坂桃李さん)は、婚約者・千絵(清野菜名さん)が失踪し、相談にと、末期ガンの父(貴山侑哉さん)を訪ねる。
そこで「ユリゴコロ」と書かれたノートを見つける。冒頭、「私のように平気で人を殺す人間は脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか」で始まるノート。人を殺めることでしか世界とつながれない美紗子(吉高百合子さん)という女性の告白だった。

内容が事実なのか創作なのか、多くの疑問を感じつつ、亮介はノートに惹かれていくうちに、母親・美沙子と父親・洋介(松山ケンイチさん)につながり、千絵の失踪に関わるという壮絶な物語です。

前半はノートに書かれた美沙子の過去がホラーサスペンスとして、後半で亮介がノートで知った自分の血に殺人者の血が流れていると驚愕しながら千絵を救出する様が、ノートに書かれた過去と交叉しながら描かれることで、とてもミステリアスで感動的な物語になっています。

幼児から少女期と丁寧に事件を追いながら、そのときどきのユリゴコロを明らかにします。幼児、玩具を傷つける、虫を穴に埋めて殺すという精神科医師が「この子は心が安全なところで生きていない」と言われる特異性格の子。
小学生の頃は、帽子が池に落ちてそれを拾おうとする少女が池で溺れるのを見ても手を貸そうとしないで死に至らしめる。
中学生では、側溝に落ちた帽子を拾う少年を鐡蓋を持ち上げ援助する人を見かけ、助ける振りをして鐡蓋に体重をかけ、少年を死に追いやった事件。
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高校生を卒業し料理学校に入り、そこでみつ子(佐津川愛美さん)に出会う。みつ子はリストカットの常習犯。みつ子に近づく男がいて、みつ子になりすましこの男を階段から突き落とす。そしてみつ子のリストカットに付き合うようになる。ここでの美沙子・吉高さんとみつ子・佐津川さんの演技が“痛い”と顔を避けたくなるほどです。

吉高さんが無表情で追い詰めていく佐津川さんの人懐っこいふわふわとした自分のない女の子の演技にぞくっとします。美沙子にはみつ子が唯一の「ユリゴコロ」になりリストカットを止めようとするが、みつ子が裏切ることで彼女のリストカットをほう助して死なせてしまう。

その後料理店に就職したが職長のセクハラで辞め、コールガールになって職長に出会いひつこい要求にフライパンで殴打して殺害する。

このようにして、殺人をすることでしか自分の「ユリココロ」を実感できないで殺害に至る過程が丁寧に描かれています。決して殺人狂の物語ではない。
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一方、自分の過失で少年を死なせてしまいその後遺症で悩む洋介(松山ケンイチさん)。美沙子が町でキャッチした相手が洋介。洋介は、精神的な衝撃で性的不能者、全く性関係を求めるのではなく、美沙子に食べさせお小遣いを与えるという付き合いが始まり、すこしずつ過去を語ることで、いつしかふたりが結びつくことになる。

美沙子のお腹にできた赤ちゃんを、洋介が自分の過去を贖罪するように、育てたいと結婚し、ふたりが次第に深い愛情で結ばれていきます。結婚することで美沙子の特異性格がどう変化したか、美沙子の持つ「ユリゴコロ」をオナモミの実で表現して幻想的に描き、とても印象的なシーンになっています。イメージ 3

このような平穏な毎日に、美沙子がかって殺害した職長の知り合いの男が訪ねてきた。この男を、家族を守るために殺害する。
この殺人が夫に知られ、同時に中学生のときに犯した罪、鉄蓋を支え続けた男に力を加えたのは自分であることも告白する。
美沙子はこれからのことについて全てを洋介に預けます。ふたりがどう考え行動し、別れることになったかは作品の核心なので伏せます。とても印象的なシーン、劇場で確認してください。イメージ 5

一方、日記を読み終えた亮介は、自分には殺人者の血が流れているとして、突然訪ねてきた細田という女性の手助けで千絵が誘拐されたことを知り、犯人を特定して殺害に向かう。
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吉高さんは、殺人者としての冷徹さ、苦悩、失望、苦しみ。そして妻としての喜び、家族を守るための苦悩など広い感情を、圧倒的な美貌のなかで、見せてくれます。
松山ケンイチさんは、これまでの作品にない包容力のある懐の大きな男を見せてくれます。美沙子に癒されていく様。そして美沙子が起した事故の真実を知り、苦しみながら決断を下す表情。松山さんと吉高さんの純愛芝居に心震えます。
松坂桃李さんは、優しいとても柔らかな人ですが、ノートを読むにつれて恐怖を感じ、苦悩して怒りを爆発さていく演技がすばらしいです。

結末は余韻を残して終わり、もう一度最初からストーリーを辿ることになり、それぞれの登場人物の「ユリゴコロ」を、なぜこのノートが残されたのか、美沙子と洋介が別れたあとどう過ごしたかと思考が広がり、深く考えることで、再び感動が押し寄せる感じです。

愛するということはとても幸せことであると同時に悲しみを抱えることにもなりますが、そこに血は関係ない。愛することこそが絶対的な「ユリゴコロ」であると行きつきます。
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