映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「スリー・ビルボード」(2017)

イメージ 1
アカデミー賞作品賞に最も近い作品として注目され、すでにトロント国際映画祭で観客賞、ベネチア国際映画祭脚本賞ゴールデングローブ賞等獲得の話題作。アカデミー賞の行方を占うためにもぜひ見たい作品と楽しみにしていました。
監督・脚本は、マーテイン・マクドナー、劇作家として名高い方とか、初鑑賞です。

娘を殺された母親が、いつまでも犯人を捕まえられない警察に怒りの看板広告を掲げたことをきっかけに、町の住人それぞれが抱える怒りや葛藤が剥き出しになっていくさまをダークなユーモアを織り交ぜつつ、予測不能のストーリー展開でスリリングに描き出すという。

一体、何がテーマなのか。この母親の怒りの収めどころだろうと映画「蘇えりし者」(2015)をイメージしていました。
亡くなった娘さんのための怒りだけでは生きていけない。彼女には息子を守り、仕事をやりとげねばならず、何よりも自分の人生を無駄にしてはいけない。怒りは分かる、しかしどこかで収めそれを超える何かを求めることが大切。癒しが必要です。

作品は、この答えに見事に応えてくれました。そして罪を憎くみ性暴力に立ち向かう姿は、今日の世界に求められる、セクハラ問題を問うています。
この観点から、ハリウッドには歓迎される作品ではないでしょうか。さらに、それとなく米国の社会問題に触れ、警告となり、たった3枚の立て看板の物語がとてつもない大きな啓蒙効果を上げたように思います。(#^.^#)

「ファーゴ」のフランシス・マクドーマンドが娘を殺された母親役、共演はウディ・ハレルソンサム・ロックウェルです。この三人が見せてくれます!

物語は、
アメリカ、ミズーリ州の田舎町エビング。ある日、道路脇に立つ3枚の立て看板に、地元警察への辛辣な抗議メッセージが出現する。それは、娘を殺されたミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、7ヵ月たっても一向に進展しない捜査に業を煮やして掲げたものだった。
名指しされた署長のウィロビー(ウディ・ハレルソン)は困惑しながらも冷静に理解を得ようとする一方、部下のディクソン巡査(サム・ロックウェル)はミルドレッドへの怒りを露わにする。さらに署長を敬愛する町の人々も広告に憤慨し、掲載を取り止めるようミルドレッドに忠告するのだったが…。<allcinema

3枚の看板を立てたことで、町の人々に第1波の衝撃が、この衝撃により第2の衝撃、これが第3の衝撃へと予測がつかない事態に発展しますが、起こる事態に“なるほど”と何の疑念も挟むことのないドラマ展開が凄い。
そして暗い物語ではあるが笑いが一杯。ラストの終わり方が、これまでのドラマ展開から、納得のいく結末でした。ミズーリ州の田舎町の風景と、音楽がドラマによく合っている! すばらしい作品でした。

          ***(鑑賞後に読んでいただければ)***
静かな、緑の中を走る道路沿いに立てられた赤い3枚の立て看板「レイプされて殺された」「犯人逮捕はまだ?」「なぜ ヴィロビー?」。
イメージ 2
緑に赤、そしてレイプの文字、これは目立ちます!これほどに母親の怒りは強い。

この広告にTV局が飛びつく。母親が「レイプを黒人問題と同じように放置している。娘は焼死体で見つかった。誰か責任を取れ、所長だ!」とコメントする。
母親ミルドレッド:フランシスが、ジャンプスーツとバンナダ姿で全く笑顔を見せることなく、いかなる敵があらわれようと論破してしまう頑固で自己主張の強い母親役に嵌っています。すごい女優さんです!

早速抗議に来たウィロビー署長、厳つい顔だがとても優しく町の人に親しまれている、小心者。このキャステイングが絶妙。()いろいろ調査が進まない理由を並べる。
イメージ 3
どうやら田舎の警察仕事のようです。()「(早く逮捕しないと)誰かが殺される」と抗議。すると署長「おれはガンだ」と告白。これに「知っている、町の人はみんな知っている。“あとでは意味がない”」と急かします。() この調子では警察は機能していないな! この突飛でもない告白も早い段階で出てくると作為とは思えない。
署長は早く亡くなりその遺書が大きく物語を動かすという展開はうまいシナリオだと思います。

牧師が「町の人たちの気持ちを考えて欲しい」と説得にやって来ます。これにミルドレッドは「1886のギャング事件を引き合いに出し、これを契機にギャングの一員なら、仲間が事件を起こしただけで自分がまったく関与していなくても罪に問われる。あなたが2階で聖書を読んでいても下で牧師が殺人を犯せば捕まる」と反論します。大笑いです。ここでは神父をやり玉にし、暗に神父の性犯罪を問うている。(#^.^#) 神父もやり込められ退散です。

ミルドレッドへの町民の嫌がらせが始まる。歯医者に行けば麻酔なしで歯を抜かれそうになる。とんでもないと抜歯ドリルで医者の手に穴をあけると、「これ幸い、この一件で広告を下ろさせる」と警察が介入してくる。()ウィロビーがこの件で事情聴取中で吐血します。

息子ロビー(ルーカス・ヘッジズ)が、「通学道路に姉の犯罪の広告があるのはつらい」と言い出す。別れた夫チャリー(ジョン・ホークス)が「俺の嫁がお前の広告で仕事を失った」と糞みたいな理由で訪ねてきて「娘がお前のことで悩んで、俺のところに相談に来た」と告げる。これは彼女には痛かった。「事件の日。娘が、車を貸してくれというのを断ったことで、徒歩で出かけたことが事故に繋がった」と後悔し、事故現場に花を手向け、そこに現れてた鹿に娘を重ね涙を流します。
ミルドレッドの本心は、優しい母親、娘への愛情が強かったことがこの大きな怒りにつながっている。癒しの愛が必要です。

突然、署長が亡くなります。拳銃自殺でしたが、下ネタもあり非常に上手くユーモアをもって描かれ、作為的な匂いはしない。脚本のうまいところです。死因は家族に迷惑を掛けたくないというものでした。

部下のデイクソン、人種差別主義者。単細胞で短気、ホモでひがみっぽい、さらにマザコン
イメージ 4
しかし、自分を使ってくれる署長には絶対的な信頼を寄せていただけに、この死は大ショック。署長の自殺原因は、この広告を作った広告社長レッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)にあると、レッドを追い詰め2階の社室から放り出し大傷を負わす。このことで新しい署長により首にされる。サム・ロックウエルの演技が絶妙です。

署長のミルドレッドへの遺言は、広告代を払うとあり、「良いアイデアだ。しっかりやれ!」との励ましでした。思いもしない愛情にミルドレッドが涙を流します。

しかし、親しまれた署長だけに、その死を契機に町民のミルドレッドへの非難が大きくなり、息子を車で学校に送ると石を投げられる。投げた犯人はもちろん周囲の生徒も同罪と蹴りを入れる。()これを見る息子が母親の勇気に感動するようになります。
イメージ 5
さらに立て看板が燃やされるという事件の発生。ミルドレッドと息子ふたりが懸命に消化するが全焼。しかし、修復に協力者が現れます。
ミルドレッドは、デイクソンが広告社長を襲ったこと、看板が燃やされたことの復讐として、警察署に火炎びんを投げる。
イメージ 6
この時、警察署では、デイクソンがウイロビーの遺書を読んでいた。遺書は「お前の欠点はキレルこと。刑事に必要なのは愛だ。拳銃なんぞいらん」とあり感動しているところに火炎びんが飛んでくる。火炎に包まれた彼はダイビングして外に逃げるが火だるま。幸いにも、いつも軽蔑している小男ジェームス(ピーター・ディンクレイジ)に助けられ病院に。

全身包帯で身動きできないデイクソン、そこに、彼が傷つけた包帯だらけのレッドに会う。()レッドが身動きできない彼ためにジュースを運ぶ。ウイロビー遺書とジェームスの好意で彼は、これが愛だと大きく変貌し、ミルドレッドの苦しもを理解するようになる。

一方、ミルドレッドは、火炎ビンで襲ったところを小男ジェームスに見られていたが、彼の黙秘により警察に逮捕を免れます。ミルドレッドはジェームスのデートに応じ、レストランで食事中に、元夫チャーリーに出会い「小男と付き合うのか?火事で看板が消えてよかった。“怒りは怒りを来すぞ”」と声を掛けられる。
この言葉でミルドレッドはデートを取りやめる。ジェームスがチャーリーのテーブルにやってきて「怒りが、怒りを呼ぶではないか!」と抗議する。()

デイクソンは、カフェで女を廻したと話す男に出会う。
イメージ 7
格闘してそいつの血液を採り、警察で鑑定することにして、このことをミルドレッドに知らせる。
彼に元警官としての正義が戻ったのです。これに、ミルドレッドは喜びます。

しかし、警察から「DNAが一致しない。彼はそのとき外国にいた、アリバイがある」と真犯人でないことを知らされたデイクソンはミルドレッドに「どうするか」と聞くと「それでも希望が見えた、“やる”!」という。

二人で、ライフルをもって車に乗り込み、ミルドレッドが「火は私がつけた」と告白すると「あんた以外にいない」と笑いながら、「道々で、“やる“かどうかは決めればよい」と隣の州アイダボを目指します。見事な結末でした。
イメージ 8
****