映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「モリのいる場所」(2018)

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最近観た前2作が、かなり刺激的なものでしたから、今回は穏やかな、ほっとするような作品をと()、「伝説の画家・熊谷守一(モリ)とその妻・秀子の晩年の暮らしぶりを山崎努さんと樹木希林さんの共演で描いた伝記ドラマ」を観ることにしました。
 
とてもシンプルな生き方と夫婦愛に感動しました。秀作です。監督・脚本は「キキツキと雨」「横道世之介」「モヒガン故郷に帰る」(2016)の沖田修一さん、そのほかの共演者に加瀬亮吉村界人光石研青木崇高吹越満池谷のぶえさんです。
 
冒頭、昭和天皇が絵をご覧になって「これは、何歳の子が描いた絵ですか?」のご質問のシーンから始まる。この出だしが作品のテーマを問うていて、秀逸です。( ^)o(^ )
何故このような絵が描けるのかと、この画家の人生を、当時93歳のモリの夏のある1日の行動を追うことで、描いています。画家は30年間外にでることなく、庭の小さな生きものたちをひたすら観察して絵に描き続けた人生なので、1日の行動の中に、30年分の経験がしっかり摺り込まれています。来客や夫婦の会話・しぐさのなかに、小さなエピソードを丹念に拾い上げ、監督特有のユーモアで味付けしてあり、くすくす笑いながら、モリ夫婦の人生に浸ることができます。作品そのものが、シンプルで暖かい、モリの作風になっています。
 
主演が山崎さんと樹木さんですから、文句のない演技ですが、さらにおふたりがモリのフアンだそうですので、一層磨きの掛かった演技で、一風変わった夫婦の味がよく出ています。( ^)o(^ )
 
この作品の良し悪しは庭で決まると思われますが、草木が茂り、花が咲き、虫や爬虫類、両生類が這い回るという自然の庭が凄い。そして、これをうまくカメラに収めている。蟻の行進やカマキリの動きなどネイチャー映画です!
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物語は、
冒頭、絵をご覧になった昭和天皇のご質問のあと、モリの画室のなかにカメラが入り、花や蟻の絵、時を刻む古い懐中時計、絵具が映される。次いで、朝の光のなかで、いくつかの鳥かご、そして庭が映される。そこには茂った草木、花があり、草木のなかにまるで絵画のようにモリの顔がある。ここでモリの代表作「鬼百合に揚羽蝶」の背景として塗られている水色をバックにタイトルが現れる。この冒頭部で、モリの人となりが紹介されて、いよいよ一日が始まります。

朝食は、モリに妻秀子、お手伝いさんの美恵ちゃん(池谷のぶえ)の3人ではじまる。
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モリは歯が悪いのでみそ汁のアゲは鋏で切って、ウインナーはペンチで潰して口に入れる。ペンチで潰す際に汁が飛ぶが、秀子がうまくこれを避ける。まるで「ラプラスの魔女」です。() 何一つ文句を言わないことに感心します。長年にわたって風変わりな夫をしっかり支えてきたことが伺え、この妻なくしては、モリは存在できなかったでしょう。
 
食後、モリは「行ってきます」と小さな庭の観察に出かける。草木が茂る庭は生き物の宝庫で、木々の葉っぱや小石に触れ、必要なら拾って袋に入れ
る。地面に寝そべって蟻の行列を丹念に観察し、新しい変化を探す。寝そべって空を見上げ、そのまま昼寝。そこには無限の知の広がりがあり、安堵がある。
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小さな庭が大きな森に、その生命は宇宙につながっていると思っているらしい。モリの人生哲学はここからきており、絵につながっている。
 
庭の奥に穴があり、下りていくと小さな池になっている。ここでメダカを観察しながら、パイプを取り出し一服。一度戻って妻に「池が遠い」と言って再び出かける。どうやら妻のことが気になるらしい。仙人のような生活ではあるが、常に妻のことは気にかける。
 
熊谷家には朝から客が絶えない。表札が盗まれていることを知らせてくれる郵便配達人。よく盗まれるらしい。() 絵を買いに来た画商・荒木(きたろう)とその友人、家に上がり自分でお茶をいれて飲み始める。トイレを借りに入ってくる男もいる。とても風通しのよい家です。

そこに、旅館経営者・朝比奈(光石研)が看板に旅館名「雲水間」と書いて欲しいとやってくる。
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この種の客応対は秀子が行う。お金に苦労した時期があったらしく、モリを説得して書かせるのが秀子の役割のようで、「旅館名を書くかどうかはわからないが」と引き受け、庭にいるモリのところに行きなにやら説得している。こうやって何年も過ごしてきたんでしょう。
モリが描いた文字は「無一物」。荒木は「旅館名を変えたら」というが・・。() どうやら、これはモリの生き方のようです。

モリの写真を撮りに通っている写真家・藤田(加瀬亮)が助手・鹿島(吉村界人)を伴ってやってくる。蟻の行動を観察している姿を映していると「蟻は左の2番目の足から動き出す」という。藤田は「わかるような気がするが、正直わからない」と返事。「30年も見ていると、わかるんですよ」()
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昼はカレーうどんを食べて、TVドリフターズ番組の話題で盛り上がっているところに、「文化勲章を授ける」という電話が入る。これを受けた秀子が「あなた、文化勲章いただけるそうです。どうしますか?」と伝えると「そんなもん貰ったら、人が一杯くるからいらない」という。秀子は「いらないそうです!」とそのまま伝える。() 名誉とか金に全く頓着しないひとのようで、仙人です!

午後になって、近隣に建設中のマンションオーナーの水島(吹越満)と現場監督の岩谷(青木崇高)が、庭の外周にモリを慕う学生たちが取り付けたマンション建設反対看板を取り下げよう説得にやってくる。
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応対する秀子、マンションができると日当たりが悪くなり池の生物が絶滅すると、「あの庭は、主人のすべてだから」と要求を撥ね付ける。ここには秀子が夫を支えてきた気概が見えます。
 
交渉の途中で岩谷が、トイレから出てきたモリを捕まえて、息子が画いた台風の絵を見せ、息子に絵の才能があるかどうかと意見を聞く。モリはこれを見て、「ヘタですね。ヘタでいい。上手は先が見えている。ヘタも絵のうちです」という。モリの生き方からすれば、小さなこと。生きていることの真の意味が込められているような言葉です。これが、“あの絵”になるんですね!
 
日が暮れ、池で眠っているモリを秀子か迎えにゆき、花を投げて起こす。このしぐさに秀子の想いが詰まっている。モリが「池を埋める」と言い出し、秀子が「一生懸命掘ったのに」と残念がる。
岩谷を呼んで埋める工事見積もりをさせるとトラック15台分だという。これは驚きですね!30年間の成果です。モリは「原因はあなたにある。責任を取りなさい。中の小魚と工賃を交換しましょう。魚の絵を息子に書かせたらいい」と一本締めで締める。()

夕飯は、客の持ってきた肉と、スイミングスクールで疲れたと美恵ちゃんが買ってきた牛肉で、量が多すぎると工事現場の人を招いて、大勢ですき焼きパーティです。誰の陰謀か?()
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モリは疲れて、縁側にでると、大きな蛍だと思ったら頭にライトをつけた宇宙人(三上博史)が現れる。() 居眠りですよ。
宇宙人が「あの池は宇宙につながっている。一緒に行きませんか。この狭い土地から出て宇宙に行きませんか」と誘う。「この庭は私には広すぎる。ここで十分。それに、そんなことになるとかーちゃんが疲れる。それが一番困る」と返事し、目が覚める。とても良い話です。

客が帰ったあと、ふたりで五目並べ。秀子は手仕事をしながら応じるが、いつも勝つ。「お前は勝つことばかり考えている」というモリに「あなたが弱すぎる」と。() モリが「もっともっと生きたい」というと「そうですか、こんなに長く生きて。うちの子はあんなに早く死んで・・」と応じる。
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この夫婦の絶妙な関係が見えておもしろい。幸せそうに見えて、悲しい出来事を経ての人生であることを感じさせてくれます。
モリが「もう1回」と五目並べを求めると、「そろそろ学校に行く時間です」と。モリが画室に消える。モリが絵を描くシーンは全くないが、なくてもモリの絵はわかるというもの。この映画は夫婦の物語ですね!
 
モリの、自然を慈しみ、自然と共に生きるシンプル生活は、理想かもしれない。しかし、それは妻の大きな愛に支えられていることを忘れてはならない。人生を豊かにするのは、よくいわれる“三惚れ“、仕事に惚れ・土地に 惚れ・女房に惚れるが、いかに大切かを教えてくれているようです。”モリのいる場所”は、秀子さんの側でした!
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「鬼百合に揚羽蝶
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