イギリス人を殺めたことに天璋院(宮崎あおい)は、薩摩が攘夷に打って出たのかと心を砕きます。そこに帯刀(瑛太)からの「薩摩が攘夷を実行したと皆が喜んでいますが、それは違います」という文が届きます。イギリスは幕府に10万ポンド(25万両)、薩摩に2万5千ポンドを請求してきたが、幕府は払う気がない。謝罪するなどとんでもないという空気。
天璋院は「わびるべきである。それが人の道」と思いを言えば、嗣子(中村メイコ)や観行院(若村麻由美)はこれとは逆に「薩摩さんは偉い」と言い出す。しかし、これに和宮は疑念をもちます。
朝廷はわずか2、3か月の間に、尊王攘夷を掲げる長州が強い発言権を持つようになっていた。その先鋒とも言えるのが桂小五郎(スズキジュンペイ)と久坂玄瑞(東武志)で、これに後押しされるように、朝廷は新たな勅使・三条実美(小浜正寛)と姉小路公知(若松康弘)を江戸に送り込んでくる。岩倉(片岡鶴太郎)は狙われ身を隠し、久光(山口裕一郎)は薩摩に身を引く。
天璋院と家茂(松田翔太)は勅使への対応について話会います。家茂が「宮様に願って、帝に攘夷が困難であることを伝えたいが、これでは宮様が板挟みになる」と和宮(堀北真希)への配慮を示すと、天璋院が「わたしが京に行って、帝にお話をしましょう」と言い出せば、家茂は「それなら私が・・」という。しかし、開幕以来、朝廷に屈する上洛がないことに拘りを見せます。
これに天璋院は「帝にお会いしてください。公方様の言葉でじかに気持ちを伝えてください。それが日本国のそして和宮のためになります」と上洛を勧めます。家定(堺雅人)が認めたとおり、政について大きな見方を示します。これを演じるあおいさんに、貫禄十分で、まったく違和感がありません。
家茂が上洛の意思を示したことは、老中や大奥だけでなく、開国か攘夷かの議論と相まって、あちこちに波紋を投じたのでした。滝山はなぜ上洛を決めたのか、天璋院が焚きつけたのではないかと疑う。(笑) 滝山が立ち去ったあと「公方様よくぞ決意されました!」とにんまりと笑顔を見せます。
薩摩では、帯刀が家老職につく。
坂本竜馬(玉木宏)が春嶽の紹介状をもって勝(北大路欣也)の屋敷を訪ねる。勝は開国の必要性を説き、海軍が必要で「公方様ご上洛には軍艦を使用していただく」という。龍馬は勝の人柄に惚れ、勝の弟子になります。
攘夷一色に染まっている朝廷に乗り込む家茂のために、天璋院は、仏師に小さな仏像をつくらせ、それを入れるお守りを手ずから縫うのでした。ちゃんと刺繍を施しております。(笑)
滝山(稲森いずみ)から家茂が京まで船で行くことを聞いて、「危ないではないか、陸路にせよと申し立てよ!」と指示します。勝が勧めてと聞き、勝を呼び出し、「海軍をつくりたいという魂胆がみえている。陸路じゃ」と一発で勝の企てを一蹴します。この論議、どちらが正しかったかわかりませんが、実の母のように家茂の安全に気遣う気持ちが伝わってきます。でも、随分度胸の据わった天璋院になってきましたね!
翌日、和宮は天璋院がお守り袋を縫っている部屋を訪ね、「私が母なら、このようなとき笑って送りだせますでしょうか。無事戻ってくるのを楽しみに待つでしょうか。私はあの方の妻です。母とは違うのです。都で何かがあったら、私は大御台さんをお恨みします」と抑えて口調で悲します。天璋院はこの言葉に衝撃を受けます。
大御台として、妻としての感情の行き違いがうまく表現されています。
翌文久3(1863)年2月。家茂が江戸に出発する日が来た。家茂の無事を祈り、天璋院がお守りを渡そうとすると、和宮が増上寺から取り寄せたお守りを手渡します。天璋院は遠慮しようかと迷いますが家茂が「それもお渡しください」という。「おふたりに守られているようで心強い」と家茂は行ってしまう。和宮からこらえていた涙が零れ落ちるのでした。
「ともに、無事をいのりましょう」という天璋院のことばに「嫌じゃ。私は、ひとりでお祈りいたします」と離れていく和宮の背中を、天璋院は無言のまま見送るしかなかったのでした。夫を思う妻と息子を思う母の間の溝は、とても深いもので、埋めようようもないほど深いものでした。
***第38話おわり***