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「海を駆ける」(2018)

イメージ 2監督は「淵に立つ」(16)深田晃司さんです。この作品、カンヌ国際映画祭で審査委員賞受賞という評判の作品でした。
「彼は海から現れた」というキャチコピーに、主演ディーン・フジオカさんが、「淵に立つ」の主演浅野忠信さん演じる得体のしれない男に重なり、何か恐ろしいことが怒るのかなと、作品を調べもしないで観ました。() 
物語は、
日本からアチェに移住し、NPO法人で災害復興の仕事をしながら大学生の息子タカシ(太賀)と暮らす貴子(鶴田真由)。彼女がタカシの同級生クリスとその幼なじみでジャーナリスト志望のイルマ(セカール・サリ)の取材を受けているとき、海岸で身元不明の日本人らしき男性が発見されたとの連絡が入る。男のもとへと向かった貴子は、記憶喪失ら
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しい男(ディーン・フジオカ)をひとまず家で預かり、海を意味する“ラウ”と名付ける。いつも静かに微笑んでいるだけのラウだったが、やがて彼の周りで不可思議な現象が起こり始め、いったい彼は何者かを問うというファンタジー・ドラマです。
 
美しいアチェの海、風物の美しい映像、若者たちの恋にそして突然訪れるラウのファンタジーな物語、音楽を楽しみましたが、いったい主人公な何者かと解釈に苦しみました。()
ラストシーン近くでラウは海のデホルメだと明かされ、タイトルに納得です。ラストシーンで、あなたは“このシーン”をいかに解釈しますかと問われて、秀逸です。
 
テーマは、アチェ津波災害復興の現状や人々の考え方、理不尽な出来事に対するアチェの人々の生き方です。そして「トーチカ」(コンクリートなどの掩蓋によって堅固に保護された機関銃座あるいは小口径の砲座。日本軍の残した残骸)にまるわる話が加わり、日本とのつながりの深いところであることが描かれています。
特に日本人の考え方と違い、自然を生かす、大切にする生き方で、人は生をつないできたという人生観、死生観に感銘を受けます。高い津波堤防など作らない・・・。

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物語は、ひとりの男が美しい穏やかな海から浜に上がり倒れ込むシーンから始まる。長い浜に、津波防波堤などは見えない! ラウを演じるフジオカさん、セリフが少ないが、佇まいに神秘性が見え、テーマに合っていてとてもよかったです。
 
次いで、貴子の家で、イマルとクリスが住民の津波災害体験談を取材するシーンで、貴子が通訳としてボランテイ活動していること、タカシの国籍がインドネシアであることなどが語られる。太賀さんが現地人に見え、明るく振舞う表情がいい。ナイスなキャステイングです。
 
貴子がいつアチェに移住したかは語られず、夫は現地人なのか?革命戦争に関わったという、そして父親が独立戦争に関わっていたことがのちに明かされるが、細部はよくわからない。謎めいた家族関係が、この物語を面白くしています。
 
イマルは津波で両親と家を失い、政府から与えられた家で革命戦士であった祖父と生活している。大学には行かず土産物店でアルバイトしながら、災害取材を映像化してジャーナリストへの道を模索している。
祖父は日本軍の統治時代を知っており、日本人には関わるなとよい印象を持っていない。しかしイマルは、それは国の問題と、無視している。
 
クリスは、津波災害でイマルが自分より能力があるにもかかわらず大学に行けないことに同情している。家の格差なのか? ふたりの間には恋愛感情はない。その他、家族については不明。
イマル、クリスは現地の人ですが、当地で人気のある俳優さんのようで、芝居がうまいです。
 
ラウが浜辺で発見されたころ、貴子の姪であるサチコ(阿部純子)が、叔母を頼り日本から、父の消息を明かすためにやってくる。写真を持っていて、時に取り出し、見ている。阿部さんのミステリアスな雰囲気がいい。
 
貴子がラウを引き取ることになり、ヌイが運転する車で家に向かい際、ラウが荷台に立って風を受けて歌い始めると、ヌイが急停車して「女と子供を見た」と下車し探し始める。
ヌイは津波で妻と子供を失っているので、ラウの唄が津波に繋がったかな!現地人の津波に対する感性を示しています。

引き取られたラウは、家で、貴子やタカシ、サチコ、そして訪ねてくる人の話を静かに聞いているだけという毎日。
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サチコはタカシに誘われ、タクシーで町の見学に出かけ、打ち上げられた大きな廃船をみる。津波の記憶を残すということのほか、観光に役立ている実態を見る。うまく津波と付き合っている。
 
ラウは何者かと、貴子、タカシ、イマルが身元調査を始める。漁師の家を訪ねると「日本語とインドネシア語を話す。着てい
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るものから、クロダだ」という。また、別の場所では「それは日本人だろう」と日本の軍歌「抜刀隊」を唄う老人に会う。今の日本人でいかほどの人がこの歌を唄えるか、何をうたった歌かもわからない。() しかし、アチェでは、今でもこの歌が生きている。( ^)o(^ )
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ラウが、熱中症で倒れた子供に、手から大きな水玉を出して飲ませ、回復させるという奇跡を起こし、イマルがこの状況を録画する。
 
サチコはこれには参加しないで、写真の風景に合致するアチェの風景を探している。こんなサチコにクリスが恋心を抱く。
しかし、タカシが教えてくれた、あなたが好きという日本語“月がきれい”(芥川龍之介)という言葉で求愛をしたことで気持ちが通じず、うまく行かない。()
 
TVコメンテイターの女性がやってきて、イマルが撮ったラウの奇跡映像を借用し、ラウの紹介番組を放送する。ラウは放送中に奇跡を実演ができず不信感を持たれる。これで、しばらくラウは外に出ないことにする。
 
一方、サチコは熱をだして昏睡状態になるが、海のなかで泳ぎながら眼鏡でこちらを見ている父の姿を見る。「この写真はトーチカの中で撮った」という父の声を聴きながら、ラウの魔力で回復する。この話をラウに聞かせる。
 
サチコは見舞いに来たクリスとデートして、昏睡中に聞こえた父の話をすると、トーチカのある島を知っているという。
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タカシ、サチコ、クリス、イマルの4人。ちょっとした思い違いで気まずい思いもあったが、誤解がとけ、フェリーボートで、トーチカのある島への船旅を満喫する。恵の海に感謝です。
島に旅立ったことを知ったラウは、監視している貴子を魔力で眠らせ、後を追う。
 
島に着いたサチコとクリスは、トーチカのある場所が、サチコの父が望遠鏡で見ていた場所であることを確認する。サチコは散骨し、父を自然に戻します。
 
タカシが海に入り泳ぎ出し、これをイマルが撮影していると、棺を担いだ島民ちに出会う。4人が殺されたと言い、そこに現れたラウを指さし、こいつが殺したという。ラウは“またね“の言葉を残して、海を駆けて沖に。亡くなった4人と同じように、タケシらはラウを追って駆ける。やがて4人は消えるが、しばらくして浮き上がり岸に向かって泳ぎ始める。
 
現実と津波がやってきた状況をダブらせて描き、自然は時に不条理になるが、疑うことなく愛し続ける生き方を示している。秀逸なエンデイングです!
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