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「四月の永い夢」(2018)

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詩のようなタイトルに魅せられ、観ることにしました。監督は若干28歳の中川龍太郎監督、初めてお目にかかる監督さんです。これも楽しみのひとつです。本作は監督のオリジナル脚本です。
主演は「神様のカルテ」の朝倉あきさん、まじめな人という強い印象があります。
 
本作は20176月、モスクワ国際映画祭で国際映画評論家連盟賞及びロシア映画評論家連盟特別表彰をダブル受賞しています。評価理由は「詩的な言葉の表現と穏やかな映像を通じて人生のエッセンスを伝えているプライスレスな作品」ということ。鑑賞所見は、まさにそのような作品でした。( ^)o(^ )
 
恋人の死を忘れられないヒロインの再生への道のりを静かに見つめるという物語。恋人が亡くなった理由、ヒロインとのかかわりなど、作品を見ながら、行間を埋めていくところに、面白さと感動があります。あらすじを読まないで観ると、より強く情感が伝わるのではないでしょうか。
 
何の変哲もないストーリー展開ですが、どのシーンにも意味があり、これが繋がって、あっという結末につながっていくという、さわやかな物語です。
 
テーマは、恋人の母が語る言葉「人生って失っていくこと。失い続けることで、その度に本当の自分を発見していくしかないんじゃないかな」です。
 
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物語は、冒頭主人公・滝本初海(朝倉あき)が満開の桜と菜の花の中を喪服で歩む映像とともに「世界が真っ白になる夢をみた。小学校のとき窓の外の景色をみた。中学のとき、・・・」と、恋人を忍ぶ詩の朗読から始まります。なにがあったのか、彼女の苦しみはなにかと、物語に引き込まれ、すべてが詩のような作品です。

ジオから流れる音楽を聴き流しながら、昼前に起き、歯を磨き、パンを食べて、アルバイトしている蕎麦屋に出勤しようとして、ポストに亡くなった息子のパソコンから見つかったという元彼の母・風間沓子(高橋恵子)からの手紙を見つけます。
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封を切って、母の添え文を読みますが、彼の文を読まない。何故か、というように物語が繋がって行きます。
 
昼飯に、近所の染め物職人・志熊(三浦貴大)がやってきます。初音に気があることがひと目で分かりますが、初音は気にも留めない。「公民館で自分がデザインした手ぬぐいの個展をやりますので来てください」とパンフレットを渡して帰っていきます。三浦さんのさわやかさが良い。どう繋がって行くのかなと次のシーンを待ちます。
 
店主が齢で店を続けるのが無理になったと、娘・忍(高橋由美子)から告げられ、新たに仕事を探すことになる。
次の日、初海は、例によってラジオの音楽を聞きながら、ゆっくり起きて歯を磨き、パンを食べて、今日は休みと町に出かけます。
帽子を買って、洒落た喫茶店でお茶して、図書館で読書。そのあと、手ぬぐいの個展をやってる公民館に出かけ、志熊と目を合わせるが挨拶もせず帰ってしまう。
 
そしてレトロな映画館で「カサブランカ」(1942)を観る。するとそこでサングラスの女性・村松楓(川崎ゆり子)に出会う。今時、「カサブランカ」を女性がひとりで観るなんて? ふたりは、映画でなく、主題歌のジャズを聴くためにやってきたのでした。会話から、初海は高校の音楽担任だった。そして楓は教え子で、今は売れないジャズシンガー。

楓は彼氏にDVされているので今夜泊めて欲しいと言い出し、泊めることにします。
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ところが、楓は部屋中を物色しだす。物色を通じて、初海は、TVもない、質素で古風な女性であることがわかります。() 初海は楓の太ももに大きな暴力痕を見つける。
 
翌日、大学の友人で教師の朋子(青柳文子)から、産休に入るので自分の後釜に臨時教員にならないかと話を持ち掛けられ会っているとき、楓から「助けて!」という緊急電話が入り、楓のアパートに駆けつける。

ふたりは銭湯に入り、初海が元彼を語り始めます。
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「彼は突然死で亡くなり、3年が経っている。亡くなる1時間前に、フェイスブックでお洒落なパスタ写真を送ってきた」と。彼の気持ちが伝わり、初海の苦しみが伝わってきます! 銭湯で告白というのがいいですね。“洗い流す“です!

浴衣の初海と楓、それに途中から志熊が加わり、遠くから多摩川の花火大会を見物。何かが起こりますね!
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初海は志熊と会話を交わし、志熊の染め物工場を訪ね、美しく染め上げられた手ぬぐいが天日で乾燥されている物干場を見る。ふたりが寝そべって、見上げる長い手ぬぐい群。
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志熊が、長い手ぬぐい布を裂いて、「手ぬぐいは、使ってもらってなんぼです」と初海に渡します。このセリフがいい。
志熊は初海の趣味が音楽、特に「赤い靴」を聞くことそして、ラジオを聞くことだと知る。
 
初海は、志熊と別れ、ipodで「書を持ち僕は旅に出る」(赤い靴)を聞きながら、軽やかな足取りで帰ってきます。
 
ふたりで、楓のライブを聞き、帰りに志熊から「また会って欲しい。やはり前の人のことが気にかかる!」と告白され、初海は「決断する時期だな」と判断し、元彼の母に電話する。
 
元彼の母の手紙、楓や志熊との出会い、そして癒される街の風景、風呂屋さん、映画館、染め物工場、花火大会、音楽などで初海が癒されてくる様子がとても心地よいです! しかし、多くは古き良き日本のもの。これを生かす。() これがまたいいですね!

元彼の両親の家、富山の田舎を訪ね、仏壇に手を合わせ、妹さんを加えて家族で彼の思い出に浸ります。
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そっと彼の部屋をのぞくと昔のまま。泊まる予定はなかったのですが、母親の勧めで泊まることにする。お母さんは泊まって欲しかったんですね。
 
初海は、母親と彼の思い出を語ったあとで、「実は彼の死の4か月前に別れていました」と告げ、涙して謝ります。やっと彼女の苦しみが解けた瞬間でした。

母親はすべてを理解した上で「あなたはまだ若いから、人生は何かを獲得するものだと思っているでしょう。そうではなくて、失うなかで本当の人生を発見するしかない」と語り、「私たちこそごめんね。息子と同じ時間を過ごしてくれたことに感謝しています」と謝ります。初海はこの言葉に涙し、彼から受け取った文を焼き捨てる。
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早朝、忘れることのできなかった桜と菜の野に出かけ、青い空を見上げる。
帰りの電車の遅延で、ふと立ち寄った店で「“この夏の失敗”、蕎麦屋さんで余計なこと言って、会って謝りたい」というラシオからのリスナー便りを耳にします。こう来たかというエンデイングでした。( ^)o(^ ) 荒っぽいところも見えますが、若い監督、しっかりレトロな日本を描いてくれていて、楽しめました。期待しています!
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