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宮﨑あおいさんを応援します

「寝ても覚めても」(2018)

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71カンヌ国際映画祭コンペテイション部門正式出品作。つい先日のTAMA映画祭での最優秀賞作品です。やっと観ることができました!すばらしい作品でした。
原作は芥川賞作家・柴崎友香さんの同名恋愛小説。未読です。
監督は数々の国際映画祭でその名を知られている濱口竜介さん、本作が商業映画レビュー作になるとのことです。
主演は東出翔太さん、ヒロインに唐田えりかさん。共演は瀬戸康史山下リオ・伊藤紗莉・渡辺大知さんらです。
 
同じ顔をした二人の男と、その間で揺れ動く女性の8年間を、スリリングに描くというもの。
恋した男の出奔で、同じ顔した別の男に惚れ、出奔した男が現れるとこの男についていくが、理性を取り戻し、似た男のもとに戻るというちょっとややこしい女性の愛の遍歴。
 
テーマは、人は何故人を愛するか?その人の何に惹かれるのか。何故その人でなければならないのかという恋愛の大原則です。( ^)o(^ )
 
プロットがしっかりしていて、このややこしい、一見バカげた話がなんの変哲もないものに思え、ミステリアスで、観る者に問いかけるよう迫り、腑に落ちる結末に大満足で、真の愛はこうあるべきと思わせてくれる作品でした。( ^)o(^ )
 
あらすじ:
地元の大阪を離れて東京で暮らしていた泉谷朝子(唐田えりか)。カフェで働く彼女は、コーヒーを届けに行った先である男を見て息をのむ。丸子亮平(東出翔太)と名乗ったその男は、2年前、朝子のもとから突然姿を消した恋人・鳥居麦(東出翔太2役)とそっくりな顔をしていた。5年後、朝子は亮平と共に暮らし、満ち足りた穏やかな日々を送っていた。そんなある日、麦がモデルとして売れっ子となっていることを知ってしまう朝子だったが…。<allcinema
 
朝子が麦と恋に陥る瞬間。亮平の愛を受け入れる瞬間、似ているから恋したのか、愛したから彼を受け入れたのか。何故亮平を裏切り、そしてその誤りに気付く瞬間。これらを、リアリテイをもって見せてくれます。
 
東北大地震の記憶や河がふたりの人生の再生につながるメタファーとして、実にうまく使われ、“じんたん”という猫がしっかりと役割を果たします。( ^)o(^ )
 
麦と亮平の2役を演じる東出さん。夢を喰って生きているような掴みどころのない麦と、現実を堅実に生きる亮平を、アクセントをつけしっかり演じていました。特に、麦の演技がよかったです。東出さんと当初わからなかった!
 
朝子役の唐田さん。純粋で誰にも愛される透明感のある女性ですが本能的に行動してしまう。しかし、あることを契機に理性を取り戻してくる演技はよかったです。まだ、セリフなどに未熟さが見られますが、それが役に合っていた。将来性を感じさせます!
 
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冒頭、牛腸茂雄の写真展を見る朝子。そこに、ぼさぼさの髪をした背の高い男性が「ふへんふへん」と鼻歌を歌いながら、朝子の脇を通り抜ける。美術館を出て階段を上り始めると、先に男が歩いていて、なんとなくこの男を追っているような朝子の足取り。登りきると、子供たちが爆竹を炸裂して遊んでいるところで、男が振り向き、「君の名は?」「泉谷朝子」「朝子はモーニング、良い名前だ」といきなりキスしてくる。
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このキスに集約される一連のシーンで、刹那に恋に陥るふたりの心理が読み取れます。
 
次いで、ふたりはバイクで海岸を走行中に接触事故で転倒。全くの無傷で、これは運命的な出会いであると、道路上で抱擁し、デイープキス。朝子は本能的に麦を受け入れるのでした。
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そして、麦が下宿する岡崎家。麦の友人の岡崎信之(渡辺大和)、その母・栄子(田中美代子)、そして朝子の友人・島春代(伊藤紗莉)を交えての、食事をしたり、花火をしたりの夢のような生活。
春代は「麦はあんたの相手ではない!」と注意するが、朝子の耳には入らない。栄子の「若い時はご飯を食べるだけでもと男に会いに東京に行っていた」という言葉の方がこころよく響く。
 
ある日、麦はメロンパンを買ってくると外に出て、次の朝戻ってくると「俺は朝子のところに必ず戻る」という。この言葉で、朝子は麦を一層愛おしく感じるのでした。信之から「一週間や二週間、戻らないことはざらにある」と聞かされます。これ以降も、何度も帰らないことがあったのではないでしょうか。遂に靴を買いに出て半年も帰ってこない。それでも朝子は待ち続けます。
 
2年後、朝子は東京に出て、喫茶店で働くようになります。近くの食品会社の丸子亮平が大坂から転勤してくる。朝子は亮平を見て、「似ている!」と驚きます。
亮平が朝子に近づきたいが、彼女が受け付けない。こんなときに偶然、朝子がルームメイトの女優・鈴木マヤ(山下リオ)と写真展にやってきたが、入場時間に間に合わず、入場を断られているのに出くわし手を貸してやります。
 
これが縁で、彼女たちの部屋に、会社の同僚・串橋耕助(瀬戸廉史)とともに招待されます。
串橋はマヤの演じる舞台ビデオを観て、その演技を安っぽいとぼろくそに批判する。マヤは批判してくれるのは良いことだとこれを受け入れるのですが、朝子が「マヤの演技には彼女でなければ演じられないものがあります」と意見を言います。
 
この論議がもとで串橋とマヤは結ばれます。ここには、朝子と麦にはない、お互いを認めるという理性の愛が見られる。
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朝子の意見を聞いた亮平は、どうしてもこの人を付き合いたいと、交際を申し込む。朝子は、一度は亮平を受け入れましたが、姿を隠してしまう。
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朝子と一緒に観ると約束していたマヤの舞台を、亮平はひとりで観に出かけるが、東北大地震に遭い、歩いて帰宅の途につく。電車は動かず、停電というなかで、弱っている人を労わりながら、皆が歩いた。こんななかで朝子に出会う。朝子は亮平の胸に飛び込み、亮平の愛を受け入れるのでした。
 
それから5年後。ふたりは仙台の大復興祭にボライイテイアとして参加するようになり、朝子は「めっちゃ、亮平が好き」というほどに惚れ抜いていました。
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そこに、シンガポール人と結婚していた春代とショッピング中に出会い、「麦がCMのモデルとして売れっ子になっている」と聞かされる。
 
マヤ夫婦と春代を招いてのホームパーテイ。
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「亮平には麦のこと話しているの?どうするの」と聞かれ、「まだ亮平には話してない」と言い、「亮平が麦に似ているから好きになったのか、好きになったから一緒にいるのかわからない」と言います。
 
亮平に話すと「似ているから一緒になれたんだろう、それはそれでいい」と麦のことを気にしていない様子。「大阪に転勤になるので、これを機会に結婚しよう」と言い出します。
 
公園でバトミントンを楽しんでいるときに、「麦が近くでロケをしている」と聞いて若い子らが駆けだすと、朝子も一緒に走り出す。麦には会えなかったが、去るロケバスに「麦、バイバイ」と手を振るのでした。
 
大坂に、亮平と一緒にこれから住む家を河の側に見つけ、いよいよ転勤という時に。アパートに麦が「ごめん、すごく待たせた」とドアーを開ける。
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朝子は麦を外に押し返し、動転して座り込む。幸いそこに亮平が戻ってきたのでその場は収まる。
ところが、串橋・マヤ夫婦とレストランでお別れ会をしているところに麦がやってきて、朝子の隣に座り「やっぱり待っていたじゃん、朝ちゃんと約束していたじゃん」と手を引っ張って連れ出そうとする。冒頭の、麦と朝子が爆竹のなかで最初のキス交わしたときと同じような情景。朝子はこれを受け入れ出て行く。
 
朝子は「いままでのことがすべて夢のように幸せだった」と麦に伝えます。麦は「北海道に帰る!」と東北高速道を走るが、途中、海が見たいと仙台で下り被災地を走っているときに、朝子が目を覚まし荒れ果てた被災地を視る。
 
「麦、これ以上ついて行けない。麦は亮平ではない。亮平のところに戻る!」と車を降りる。麦はこれをあっさり認めます。
朝子は高い津波防波堤を登り、荒れる海を見て、一切麦に頼ることなく、被災地の知人に金を借りて大坂に転居した亮平のもとに帰ります。自分には誰が必要なのかと理性で考えられるようになっていた。やっと本当に目が覚めたのでした。
 
戻ってきた朝子に、亮平は「おまえは俺を捨てた、だから猫も捨てた」と家に入れない。朝子は、自分が可愛がっていた猫だけに、必死に河川敷の中を探します。
“じんたん”、“じんたん”と大声で探していると、「無駄なことをするな!」と亮平が声を掛け、走って家に帰り出す。朝子は必死でこれを追っかける。どんなことがあっても亮平を捕まえようと走る。このシーンが空撮で長い!
 
家に着くと、亮平は“じんたん”を朝子に差し出し、中に消える。亮平は、とんでもないことがあったが、朝子を捨てられなかったのでした。
家に入り、二階から河を見ている亮平に、朝子が切り出します。
「亮平はやさしい。もう甘えない!」
「おれはお前を信じへん!」
「分かっている」
「河の水が増している。きたない川や」
「でも、きれい!」
とても秀逸な会話でした!
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朝子は、理性で亮平の愛を必要とするまでに成長しました。これに、亮平がしぶしぶ応じます。お互い、胸の中に麦の影を抱えながら人生を再出発するという、本当の愛の形を見せてくれました。
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