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「否定と肯定」(2017)

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ユダヤ人のホロコーストがなかったという説(否定)に驚きました。膨大な証言、証拠物件があるだろうからそんな馬鹿な説などまかり通るはずがないと観ることに。しかし、学者の説となるともっともらしく聞こえ、これを崩すことの難しさを知りました。
 
原題は「Denial(否定)」。「ナチによるユダヤホロコーストがあった」とするユダヤ歴史学者デボラ・E・リップシュタットとこれを否定するデイヴィッド・アーヴイング(否定)が法廷でホロコーストを巡って論争する話。
 
否定というのは、もうひとつ意味があります。弁護団が「自己否定せよ」とエボラを法廷に立たせなかったこと、これが大きな勝因になっています。
裁判は事実が正しいか否かという土俵より、さらに大きな土俵、相手の心情がいかなるものかを明らかにすることであったからです。
 
描かれるのは、裁判描写より、これを援護した大弁護団の弁護の在り方です。
 
 
アーヴィングの説は、デボラが学生ゼミで語る形で提示されます。
ユダヤ人殺人が欧州全域に及んでいない。
600万人よりはるかに少ない。
・新しく作った収容施設にガス施設などない。
ガス室の写真は一枚もない。
したがって、「ホロコーストユダヤ人が捏造したもので、彼らは賠償金をせしめてイスラエルを建国した。そしてまた、戦争は残酷なものだ、戦争の犠牲者として苦しんでいるのはユダヤ人だけじゃない。大げさだと」というもの。
 
1994アトランタ。デボラはメモリ大学の講演でアーヴィングへの反対論をぶち上げ、これを信じる者の質問は受けない。
傍聴していたアーヴィングが激しくデボラを非難し、これに感情的に反応するデボラをカメラに収め、出版社のペンギン社とデボラを裁判に訴えます。
 
1996.9.25ペンギン社とデボラは「アーヴィングは嘘をついている」と大弁護士団を編成し、法廷で争うことにする。
 
事務弁護士となったアンソニー・ジュリアス(アンドリュー・スコット)は英国の裁判では被告側に立証責任がある。この裁判は荒れると予想され生存者には酷であると彼らの証人参加をさせない。さらにアーヴィングの立場で裁判を進めるため、彼の日記を手に入れるという。実はこれが決めてになるんです!
 
そして、デボラには感情的にならないよう注意する。デボラは短気・感情的で議論できなくなる癖がある。これをレイチェルがうまく演じています。
 
法廷弁護士はリチャード・ランプトン(トム・ウィルキンソン)が担当する。
ランプトンは早速、アウシュビッツの収容所跡を視察する。雪の舞う施設を視察する映像には、異様さを感じます。脱衣所、シャワー室、ガス室を図面で確認する。現物は何もない。
ここでガスを使ったという証拠は否定派のツンデルひとりの確認資料のみ。これにより、ロイヒターが論文で「濃度が低くノミの除染用だ」と主張していることを聞いて、デボラは「何故専門家を入れなかった」と激怒する。(ランプトンはこの説への対応策を考えていた)。
 
視察後ランプトンは弁護方針を明らかにします。裁判は判事による審議によること。もうひとつデボラは証言しないこと。デボラが参加すると議論の焦点がボケルというもの。
これには納得です。レイチェルが実にうまく演じてくれます。() 
デボラは憤慨するが受け入れざるを得なかった。
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さらに、こちらの質問事項は相手に事前に与え真実で勝負するという。
さらにさらに、マスコミ対策。べらべら喋らないで判事たちの印象をよくすること。
 
20001月、多くのマスコミの注目が集まる中、王立裁判所で歴史的裁判が開廷した。
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ランプトンは「あなたは歴史家と自称しているが偽歴史家、大嘘つきだ。著「ヒトラーの戦争」の1977年初版ではほぼ事実を認めているのに1991年2版ではホロコーストの記述がない。これはロイヒターの“アイシュビッツの巨艦をぶっ潰した“という彼の論によるものと思うが、変更した理由は何か」と問いかける。
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アーヴィングは、「1945ソ連が侵入した際、ガス室には触れてない。ガス室4本のパイプがあったというが見つかってない」とガス室は存在しないと反論する。
証拠は施設の痕跡の航空写真のみ。パイプの跡について穴だ影だといくらでも詭弁を使ってくる。
さらに「ガス室は死体を消毒するもので遺体安置所だ」と主張してくる。
 
これに、ランプトンは「観測窓の目的はなにか」と問う。「爆撃を避けるためだ、防空壕だ」という。ランプトンは「建物の建設時期が1943年で、この時期爆撃の心配などない、さらにゲシュタボの宿舎が4kmも離れており、対応できない」。そして、
「死体はガス消毒されてから火葬に付されたと思うが、すぐ焼却するのに死体をガス消毒するのか?」と反論する。
アーヴィングは「思い付きで書いたかもしれない。ホロコーストでなくヒトラーが専門なので・・」と逃げる。
「専門外には口をつむぐことだ。歴史家として不誠実だ!」
これにアーヴィングは立ち往生。
ランプトンが現地を視察していた成果です! この様はマスコミに流れ、アーヴィングは質問攻めに合う。
 
アーヴィングの不誠実をさらに突く。
SS隊長ヒムラーがすべての通信記録を残しており、この記録をあたかもヒトラーユダヤ人の抹殺を止めたように書き換えた」と責める。
アーヴィングが「初めての資料だったので読み取りが悪かった。その程度の間違いはある」と返事。「この程度?」とランプトン。
 
これに関連し、アーヴィングが各地で行った講演記録(ビデオ)を証拠として提示し、「政治的な意図でやっている」と責める。さらに人種・性差別思想の持主であることを明らかにする。ここでは彼から借用した日記が有効に使用されています。
 
ところが、ここで裁判長から「人はだれでも間違えることはある。アーヴィングはそれを信じてやっているんだから嘘をついたことにはならん」と発言があって、結審を待つことになる。
 
ここからの判事たちの論議は一切描かれていないのが残念です!
 
弁護団は、悶々とした日々を過ごし、いよいよ判決の日を迎える。
 
判決は「アーヴィングは自らの思想で真実を改ざんした」とアーヴィングの敗訴を示した。
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これを受けてデボラはチームワークで勝てたと弁護団に感謝し、「生存している方また亡くなった方の苦しみの声は届いた」とこの法廷闘争の意義を述べた。
 
歴史の歪曲を正すことがいかに難しく、大きな労力を要することかを知らされました。我が国にもこの種問題が存在して、とても示唆に富む作品でした。
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