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「教誨師」(2018)

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大杉漣さんの遺作、WOWOWで観ました。
どのシーンも自然で、作った演技はひとつもない。優しい大杉さん、苦しむ大杉さん、すこし怒った、不器用な大杉さん。どの大杉さんも素顔の大杉さんで涙が出ました。
本作は20182月に急逝された大杉漣さん最後の主演作にして初プロデュース作、6人の死刑囚と対話する教誨師の男を主人公に描いた人間ドラマです。
どんな気持ちでプロデユースしたのか?佐向大監督によれば“遺作になるかもしれない”と言われたとのこと。
 
教誨師の役割は、受刑者の道徳心の育成や心の救済につとめ、彼らが改心できるよう導くこと。
この仕事を引き受けて間もない死刑専門の教誨師・佐伯(大杉蓮)が死刑囚と対面し、自分の言葉が彼らに届いているのかと苦悩する様を描いた会話劇です。
佐伯が対面するのは、心を開かない無口な男・鈴木(古舘寛治)、おしゃべりな関西の中年女・野口(烏丸せつこ)、お人好しのホームレス・進藤(五頭岳夫)、気のいいヤクザの組長・吉田(光石研)、家族思いで気の弱い父親・小川(小川登)、自己中心的な若者・高宮(玉置玲央)の6人。
 
教誨室という限られた空間で繰り広げられる会話劇ですが、絶妙なタイミングでランダムに対話者が変わり、対話が次の対話に影響し佐伯の心情に変化がでてくるうまい演出で、最後まで緊張して観ることができました。
 
そして、出演者皆さんの演技に引き付けられます。なかでも、進藤:五頭さんの人の良さ、高宮:玉置さんの才走った不気味さ、野口:烏丸さんのバカ女ぶり。芝居は素人だといいますが、小川さんの素人さが小川役にそのまま出ている演技がとてもよかった。
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“改心させる”とは何か。生きて罪と向かい合って欲しいということ。「生きる」ことの意味を問うていると思います。これは映画「有罪」(2018)にも通じるテーマです。
 
向き合えなかったのは吉田、野口そして高宮でしょう。吉田、野口の横柄な対応にも、佐伯は犯した罪が何なのかなど問わず、聞こうともせずひたすら聞き役にまわり優しく丁寧に対応する。佐伯と対話をする時間を持てたことが彼らには救済であったと思います。

高宮は饒舌に「社会をよくするために殺した。やつらは知能が低いから。自分が死刑というのは裁判制度が悪いから。教誨師の説教で自分のしたことが悪かったと変わることはない。教誨師はなんの役にも立たない」と佐伯を責める。
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佐伯は、自分の不注意で兄が人を殺め自殺したが兄の犯した罪は自分にある、どう謝罪すべきかとの想いがあって・・。「辞めたいけど、止めない。それは生きたいから。 自分は“何故生きているのか”を問うている。やりたいことがある。あなたの側にいたい。私は高宮さんが怖い。きっとあなたのことを知らないから。知らないことが怖い。生きるのも死ぬのもそう。“私の役目は穴を埋めること”、誰が穴を開けたのかを問うことではない。開いた穴を逃げずに見つめること」と自分の想いをぶち当て訴える。佐伯はせせら笑った。

高宮の処刑に佐伯が立会した。高宮はぶるぶる震え遺言も残せない状態で、佐伯にすがりついてくる。佐伯は「この地上ではあなたの罪は許されない。私はあなたを知ることができて、感激です」と言葉を掛け、教誨師として彼と対話したことが無駄ではなかったと確信した。
 
向き合った三人、鈴木、小川、進藤。しかし、小川、進藤には問題があった。
小川は、「計画的な殺害ではない」と言い「訴えましょう、新しい人生を歩めるために」と諭したが「決められたこと」と死刑を受け入れた。
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進藤は、佐伯の人柄が気に入り、聖書を読むために文字を教わり、洗礼を受けた。しかし、刑の執行にあたり手渡された紙切れには「あなたがたのうち、だれがわたしを、つみがあるとせめうるのか」と書かれていた。これは、佐伯に大きな悔やみとして残った。
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ラストで見せる大杉さんの表情は、何を語りたかったのでしょうか。「まだ、未熟だ」のように感じました。大杉さんの死を悼みます。
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