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「旅のおわり世界のはじまり」(2019)

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監督が「岸辺の旅」「散歩する侵略者」の黒沢清監督ということで観ることにしました。これまでの作品イメージとはずいぶん違うなという印象を受けました。
この作品はウズペキスタンと日本の国交25周年記念して作られた両国の合作映画。作るにあたっていくつかの条件があったようですが、これらをうまくクリアーし、ウズペキスタンの大自然と日本とは異なる文化、日本との歴史の接点に触れながら、主人公TV番組の女性レポーターが「本当にやりたいことに挑戦しよう」と自らの殻を破って成長していく物語になっています。「人は旅をして新しい自分を発見する」という普遍的なテーマですが、演出に監督らしいこだわりがあって感動的でした。
 
主演はいくつかの監督作品に出演している前田敦子さん。監督にはとりわけ特別の人のようです。孤独な佇まいが気に入っているようで、敦ちゃんがほぼ全シーンに登場、ポロモーションビデオのようで「愛の賛歌」(松永裕子作詞バージョン)をオーケストラとアカペラで二度歌います。セリフは宛書のようで、ラストで美しい敦ちゃんが見られ、このことをよく示しています。
TVクルーとしてカメラマン:加瀬亮さん、デイレクター:染谷将太さん、AD柄本時生さん、通訳&コーデイネーター:アデイズ・ラジャボフさん。とても自然な演技で、敦ちゃんを盛り上げます。
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ロケ地はタシケントサマルカンド、ザーミン、アイダル湖など。「不思議発見シルクロード親日国 青の都・ウズペキスタン」(615日)でもいっかり紹介されました。
折角のウズペキスタン。美しい場所を見せてくれると思いきや、主人公の彷徨う行動に合わせ、薄暗い路地、地下道、ほこりっぽい街頭の雑踏が大部。主人公の心の中を映しているようで、ラストで初めて美しい青く光る湖と砂漠を見せてくれ、それだけにあっと声がでるほどの感動があります。
撮影担当は芦澤明子さん。物語はタイムスケジュール通りに進んでいるように見えますが、撮影は、未知の地形に意思疎通が難しいなかで大変だったようです。
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すでに番組クルーはロケ現場に出発。遅れてリポーターの藤田葉子が現場に。着くといきなり湖に入るスーツを着せられ撮影開始。「みなさんこんにちは。いま、私はユーラシア大陸のど真ん中、ウズペキスタンに来ています。ここアイダル湖はかって灌漑を作ろうとして水が溜まってできた、琵琶湖の5倍ある湖です。果たして怪魚“プラルム”はいるのでしょうか?」と仕掛けた網を引き揚げるが、なにもいない。()
 
次は名物料理「プロフ」の試食と食堂に移動。打ち合わせがうまくできていなくて生の米を食べされられるが、「おいしいです。チャーハンのような味」と笑顔でレポート。() 出来上がった料理をクルーはうまいと食べるが、葉子は「さっきたべました」と手を付けない。() ホテルに帰ると、恋人・隆一にメールして自らを慰める。
 
夕食は、外で食べることにして、ひとりでパンフレットを頼りにバスに乗ってバザールに出かけ、買い物をすると「先に金を払え!」と催促される。習慣の違いを知り、さらに奥に進み“道に迷って”、狭い柵に囲まれたヤギに出会い自分の姿を見たような気持ちになったが、通りがかりのバスを拾いホテルに戻った。
 
次の日、公園で古い回転ブランコで遊ぶシーンを撮る。レポートは「こんな公園は日本にはない。ユーラシアの小さな町からのレポートです」。
危険極まりない!敦ちゃんがこれに4回挑戦です。終わって吐く。根性のある女優さんですね。もう芝居とは思えない。() これを命じる監督も監督です。() 怪我がなくてよかったです。
「まだやれるか?」とデイレクターが聞くと「はい」と。「彼女はレポーターには向いていない、なんとかしろ!」と思いましたが、・・・
 
この後、再度アイダル湖で怪魚に挑戦するが見つからない。「女がいるから寄り付かない」と現地人。この作品では通訳してくれないと分からない仕組みになっていて、葉子の気持ちで作品を観ることになり、彼女の不安がよく伝わります。
「こんなバカTVレポーターをよくやってるよ!」と思っていると、彼女が「ヤギを草原に戻してやったらどんなに喜ぶか。番組につかえません?」という案を出す。
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昨夜見たヤギを買い取り誰もいない草原に放すと、そこにヤグを売ってくれた女が車でやってきて「捨てたヤギだから拾う。放っておくと犬に食われる」と攫おうとする()。日本人の感情は、ここでは通用しないことを思い知らされる。
ホテルに戻ると通訳から「日本には海がある。海は自由の象徴ですか」と問われ「海は危険で自由とかそんなものではない」と返事する。今の日本人は自由という心を失いかけているのかもしれない。
 
首都タケシントに着いたが、ホテルの客室はWi-Fiが繋がらない。恋人に絵葉書を出しに郵便局に出かけ、噴水の向こうに大きな建物(ナポイ劇場)が現れ、美しい歌声に誘われ中に入ると、いくつもの装飾された部屋がありその奥にステージがあった。着席してオペラ歌手の練習風景を見つめていたが、いつの間にか「愛の賛歌」を熱唱する歌手が葉子の姿になっていた。
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そこに警備員がやってきてパスポートを見せろと求められ、我に返って逃げた。何故逃げたのか?「怖い!」だけか。
 
翌日、通訳の申し出で「ナポイ劇場」をレポートすることになった。この劇場は先の世界大戦でロシアに抑留された日本の捕虜たちがここに送られ、ウズベキスタン6つの民族のために美しく装飾した部屋を作ったという。いつどこで死ぬかもせれない彼らの「今を生きる」想いを知ることになった。
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葉子がカメラマンとなりチョルスーバザールを経て、ナポイ劇場に行くプランでレポートを始める。このバザールのレポートはすばらしい。
途中でネコを追っていて、皆とはぐれ、ポリスに追われ、カメラを捨てて逃げたが逮捕された。しかし、取り調べを受け「何故逃げたのか?話せばわかる」と説諭され、カメラを返してもらう。「撮影したことで咎められる」と逃げたというが、“未知だから怖い”と逃げるのではなく“勇気をもって“話をすることの大切さを知る。
 
ここで、「東京が燃えている」というニュース(実が東北大地震)を見て、恋人の隆一の安否で落ち込むが、無事であることを知り、遠い異国で恋人の存在が如何に大きな存在であるかを確認。大きな愛の力を知る。
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撮影を中止してデイレクターとADが帰国するが、通訳の「面白い怪獣がいる」という誘いで、カメラマンと二人でタケシントジザフ州ザーミンを訪ねる。青い湖に白い砂地の丘陵(2440m)。葉子が頂上でさらに奥地を見るとそこは草原でヤギの姿が見えた。葉子は「愛の賛歌」を歌い「もっと大きな世界がある。世界は広い!」と思った。
撮影の旅の最後に、葉子が見たものは「生きる!」という美しい風景でした。
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