本作が清原果耶ちゃんの映画初主演作品。さらに「新聞記者」(2019)の藤井道人監督が描く思春期の少女の成長物語に興味をもって、観ることにしました。
監督がこんなファンタジーで、ピュアな物語を作るのか!清原果那ちゃんの持てる全ての佇まいがスクリーンに溢れ、短期間によくぞここまで成長したなと感動しました!
人の暖かさに直接触れて成長する思春期の少女の物語、人を誹謗中傷するSNS世界にあって、清涼の一服。藤井監督と清原果那ちゃんにふさわしい作品だと思います。
高校受験を控えた夏休み。心配ごとを多く抱えてもやもやしていた少女が、不思議な老婆に出会う。少女は老婆に励まされ、家族や恋人など人の繋がりの奇跡を確信し、幸せとはないか、愛することの大切さ、自分のやりたいことを見つけていくというファンタジーストーリー。
原作は野中ともの同名小説。監督・脚本:藤井道人、撮影:上野千歳、美術:部谷京子、音楽:大間々昴、主題歌Cocco、歌清原果那。
主演:清原果那。共演:桃井かおり、伊藤健太郎、水野美紀、坂井真紀、吉岡秀隆。
あらすじ(ねたばれ)
物語は2005年夏のある夜、中学3年生の大石つばめ(清原果那)が、習字学習を終えて、教室の屋上で、自宅の隣にすむ大学生朝倉亨(伊藤健太郎)に誕生日のカードを書いているシーンから始まります。
教室から帰って朝倉家の郵便受けに投函して、朝起きて郵便受けを確認しようとすると、亨に見つかってしまう。慌てて家に逃げ込むつばめ。(笑)
つばめは2歳のとき生母・ひばり(水野美紀)と別れ、母親の顔を知らない。父・敏雄(吉岡秀隆)は後妻に麻子(坂井真紀)を迎え、現在大きなお腹を抱えている。つばめの悩みは新しい子が生まれると自分は可愛がってもらえないのではということ。もうひとつ、隣の亨に自分の好きだという気持ちを伝えること。
大学生の亨には悩みがある。姉のいずみ(清水くるみ)がヤンキーの森島(笠松将)と付き合っており、姉は幸せになれないというもの。彼はバンジョーを弾き、バンド活動をしている。庭にはホウズキの実がなっていた。
登校すると友達から「これみて!」と掲示版(SNS)を見せられる。元カレの笹川誠(醍醐虎沙郎)のいたずら投稿。げんなりのつばめ。
学校が終わっての習字教室。つばめは字を書くことが大好きで今日は「後悔」という字を力強く書いた。牛山先生(中山崇)が「悔やんだ割りには元気がある」と褒める。字の練習が終わって屋上に出ると、そこにキックボードがあり、これで遊んでいると変な衣装で得体の知れない老婆が「キックボード教えろ!」と話しかけてきた。乗れるようになったお婆ちゃん。水溜まりに写る姿は、宇宙からやってきたお婆ちゃんに見えた! 自ら「星空に遊ぶお婆ちゃん、“星ばあ”だ」と名乗った。桃井かおりさんの星ばあの姿は幻想的でとてもおもしろい!
「歳とったら何でもできる!」というから、つばめは「亨に書いたレターが恥ずかしいから回収して!」と頼んだ!
次の日の習字教室で、つばめは「変化」という字を書いた。この字を見た牛山先生は墨絵を見せて「やってみないか!山上先生の絵は見たよね!」と勧めた。つばめは「家族と相談します」と即答を避けた。
屋上に上がると星ばあが亨に出した誕生日カードを回収してくれていて、「前に進め!時間をもっと気持ちよく使え!直接言え!」とコメントした。「直接言え!」が今の時代特に大切だと思います。
バンドの練習を終えて帰る亨に出会った。「誕生日おめでとうございます!」と挨拶すると「ありがとう!」と返ってきた。つばめが大感激した。
つばめはこれで元気が出てきて、山上ひばりの水墨画集と東京での個展チケットを手に入れた。
夜、屋上で星ばあに頼まれていちゃ野菜を渡した。うまそうに食べながら「いろんな屋根があるが、屋根をみればどんな人がいるか分かる。自分がどんな屋根の下に住んでいうのか、“自分を知ること”が大切だ!」と言う。つばめは「どんな屋根の家に生まれたのか?2歳のときお母さんは自分を捨てて出て行ったから」と聞いた。
つばめは「その前に私の頼みを聞いて欲しい」という星ばあの願いにつき合うことにした。
ふたりは海岸で貝を拾い、婆ちゃんにお土産店で海坊主のマスコットを買ってもらい、水族館でクラゲを見て、「このクラゲを見たかった!クラゲになって空を、何も考えないで、飛んでみたい!」という。これにつばめは「くらげになっても面白くない。生まれてくる子のお姉ちゃんになれるかどうか?私とは血が繋がってない!」と応えた。星ばあは「夫婦は元々血の繋がりはない。あんたが繋げばいいんだ!」と教えた。この問題はよく聞く「家族の問題」ですが、答えが極めて明確です!「ホウズキの実でも、ふたりで育てれば繋がるんだ!」という。こういう話がすばらしい。この作品には心打つ言葉が沢山あります。
クラゲが泳ぐ水槽シーンはまるで宇宙を覘いていてようで、人間という不思議、生命を覘いている気持ちになれます!
星ばあは「孫に会せてもらったが、こんな可愛いものはない!空を飛べたら手を繋いで空を飛びたい!と水族館に来たわけを話した。
つばめは意を決して、山上ひばりの個展を観にいった。“三羽のツバメ”の絵を魅入っていると女性(産みの母・ひばり)が「気に入った?これは10年前に描いたの。疲れて屋根に止まっているところ」と説明してくれた。(つばめを置いて家を出たころの絵?)
「若い人が観にきてくれたお礼に」とこの絵葉書を貰った。「ママ!」と駆け寄る女の子を見て、つばめは「お母さんは幸せなんだ!」と思ったが、複雑な気持ちだった。
雨の降る中、びしょぬれになりながら、泣いて家に戻った。つばめはひとりでないことに気付け!とリュックに付けた星ばあがくれた海坊主が揺れていた。この細かい描写が良い! 母と父が雨で濡れた身体を拭いてくれた。
つばめは三羽のつばめの絵葉書を見せて、「新しい子ができたら、私なんかどうでもいいんでしょう!」と父母に迫った!
つばめは泣きながら、ベッドのなかで、クラゲに掴まって自分が育った家の屋根を探す夢を見ていた。
このころ、隣の大学生・亨は姉のいずみに暴力を振るった森島をバイクで追い駆けていて、交差点を渡る男(誠)を見て、これを避け横転、脚を骨折という重傷を負った。
つばめは隣家のホオズキを目にして、星ばあと亨の病院に急いだ。病室に入ると亨が「来てくれたの!ありがとう!」と喜び、姉いずみの問題で泣き言を漏らした。このことがつばめには嬉しかった。亨の人としての優しさに触れ、「やさしかった!」と星ばあの胸で泣いた。そして、亨の弱いところが見え、これを助けることの喜びを知った!
夏休み。家族は旅行に行ったが、つばめは亨のリハビリにつき合い、亨の回復に合わせ、ふたりで星なあの孫捜しをすることにした。星ばあの記憶“一軒家のえんじ色の屋根”。
つばめは母麻子に生まれる赤ちゃんにと、靴下をプレゼントし「私が姉として面倒します」と伝えた。母が泣いて喜んでくれた。
星ばあの孫捜しに、亨がバイクで転倒した際病院に通報した誠が加わった。誠から「見つかった!」というので、“星ばあ”とつばめが見に行くと、誠が中に入って行った。付いていくとキックボードがあった。星ばあはクラゲが泳ぐように踊って去っていった!
夏休みが終わって、つばめは誠にファミレスに誘われ、「引っ越すことになった。このお婆ちゃんが会いに来て次の日に死んだらしい」と家族写真を見せた。そこに“星ばあ”が映っていた!つばめは涙が止まらなかった!
糸電話で星ばあに「会えましたか!」と伝えた。返事はつばめには聞こえた!
感想:
桃井さん演じる“星ばあ”は幽霊か?実物か?とてもうまい演出で、ファミレスでのつばめと誠の会話が絶妙でした!これがこの物語の質の高さを示しています。さらに、年寄りを大切にする物語ということで、高評価したいです!(笑)
キックボード、手紙、クラゲ、ホオズキ、墨絵、糸電話などの伏線を繋いで次々と奇跡のように人が結ばれていく物語。この物語に差し込まれる墨絵が、物語の進展に応し、つばめ27歳にしての個展に展示された墨絵であることが明らかになる。うまい話運びに唸ります。作品に気品があります!そして、作品テーマのひとつ、なりたい自分、血の繋がり、さらに生命の不思議を描いているとは!
行動しなさい、自分を知りなさい、人を愛しなさいと極めて明確に行動基準を示し、ひとつひとつに挑戦して、自分の居場所、なりたい自分を作っていくという、この年頃の少年少女に必要な行動基準を示す。これを桃井かおりさんという謎めいた稀有の女優さんと清楚で芯のある美しい清原果那さんという、ふたりが持つキャラクターで描かれ、とても楽しく見ることが出来ます!
作品の大きなテーマのひとつ、血の繋がたない家族の問題。答えが単純明快で舌を巻きました。つばめが「わたしは放っておかれる!」と母親に楯突いたが、“星ばあ”の孫探しや亨の姉を思う優しさから、同じ屋根の下で暮らせる幸せに気付き、母に謝るシーン、坂井さんの熱演がすばらしかった。しかし、その後で父敏雄から母麻子がつばめを産みの母ひばりに渡さなかった経緯を聞かされ、麻子の母としての在り方、人としてのすばらしさに感動します。
清原さんはドラマ「朝がきた」(2015)で、銀行家の娘宮﨑あおいさんが大坂の富豪に嫁ぎ際の次女役でTV初参加。宮埼さんの演技を観て育ったといいます。そしてドラマ「蛍草 奈々の剣」(2019)では、主演となり葉室麟描く武士の娘を見事に演じてみせました。そして今回の作品を観て、すばらしい成長だと思いました。これからが楽しみです。
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