Sincerelyで始まる物語。ヴァイオレットとギルベルトの戦場シーンが京アニの事故が重なり、ふたりの愛の物語は、極限状態で得た人の優しさに溢れていて、涙が止まらなかった。このような作品はもう出てこないのでは!
原作もTV版も見ておらず、「外伝」を見たのみの所見となります!京アニは絵が美しいですが、それを凌駕する愛に溢れる物語だと思っていましたが、本作はさらに磨きがかかった愛の物語になっていました。
孤児で言葉も親も知らなかった少女。ブーゲンビリア家に拾われ、次男ギルベルト(少佐)によってヴァイオレットという名を付けられ、戦場に女子少年兵として参加。少佐の配下となり活躍、激戦のなかで両腕を失い「愛している」という少佐の言葉で病院に送られた。復員後、エヴァーガーデン家の養女となり、今では郵便社で代筆業をしながら、少佐の「愛している」という言葉の真意を探しながら、少佐との再会を待っていた。ふたりは会うことができるかという愛の詰まったドラマ。
「人は人のための生きる」「本当の気持ちは言葉だけでなく、隠れたところにもある」「気持ちを伝える手段としての手紙の価値は?」など、愛の本質と伝え方に触れる物語です。
代筆業をしながらいろいろな愛の形・伝え方を知って行くヴァイオレット。彼女が少佐の「愛している」をどう理解したかが試されます。彼女の勤めるC.H郵便社の面々や少佐の兄ディートフリートとの交流、代筆で知合った命僅かな少年との交流を交えながら、愛とはなにかを問い、戦場で傷つき未だ癒えぬ少佐との対峙がみどころです。泣けます!
原作:暁佳奈、監督:石立太一、脚本:吉田玲子、キャラクターデザイン:高瀬亜貴子、総作画監督:高瀬亜貴子、撮影監督:船本孝平、音響監督:鶴岡陽太
声優:
ヴァイオレット・エヴァーガーデン:石川由依、ギルベルト・ブーゲンビリア:浪川大輔。
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』本予告 2020年9月18日(金)公開
あらすじ(ねたばれ):
テイジーは母親にうまく想いが伝えられない。ヴァイオレットの代筆で交された祖母と曾祖母の絆を思い、彼女の足跡を訪ねる旅で出るシーンから物語が始まります。
ヴァイオレットがC.H郵便社のドールになって5年。沢山の代筆をこなし海も感謝祭の文章で賞をいただき、市長から称賛されるほど今では社の人気ドールになり、エリカやアイリスの憧れの的だった。しかし、戦場で別れたギルベルト少佐の言葉「愛している」を思い出し、思慕が募り手紙を書く日々で、表情は暗かった。こんなヴァイオレットを社長のホッジンズや先輩ドールのカトレアが心配しながら暖かく見守っていた。
ベルベットの母親の月命日。墓参でギルベルトの兄ディートフリートに出会った。「戦争が終わって何年にもなる。もうギルベルトのことは忘れなさい!」と言われ、「生きている限り無理です」と返した。こうやって月命日に墓参りをするというのは、戦場で“命の重さ”を知った者でなければできない。この重さがギルベルトへの想いに繋がっている。この時落としたリボンをディートフリートが拾ったことが縁で、彼の招待でギルベルトの思い出が詰まったヨットを訪れることになる。
ヨットを訪れるとギルベルト少佐の想い出の品が一杯だった。ディートフリートが、今だから話せるとギルベルトへの想いを語った。
「家を継ぐこと、軍人になるのが嫌いで父親と喧嘩し、それを見たギルベルトが家を継ぎ、軍人になった。俺のためにあいつは生き方を変えた。そしてこの様だ!失くしたものは大きい!会ったら話したい!」と悔いた。
墓参りのあと、男の子から電話で代筆の依頼が入った。訪ねるとユリスという男の子だった。3度も手術して長くは生きられない。そこで父母、弟に手紙を書いて預かって欲しいという依頼だった。ヴァイオレットが「気持ちには表と裏があります。本当の気持ちを書きたい」とユリスの希望を聞いた。「父母には感謝の気持ちを、弟には自分が父母に甘えられなかったからしっかり甘え、自分の分まで生きて欲しい」と書くことで同意した。
ユリスは「あなた変わっている。何も聞かない、同情は嫌だ!」と言った。心の傷に触れるときは言葉でなく沈黙の愛情しかない。腕を失っているヴァイオレットは、そのことを知っていた。
帰りかけると、もう1通書いて欲しいという。見舞いを断った親友ユカに。「それは自分で伝えたほうが良い。私に愛を教えてくれた人にそれを言えなかったから、手紙にしますが・・・」と言って帰った。3通目を書き上げることなくギルベルトを探す旅に出た。
ある日、ギルベルトは生存しているのではないかと思われるあて先不明の手紙が見つかった。ディートフリートにも知らせた。彼の生存を確かめるため、切手から判断して、ホッジンズとともにエカルテ島を訪ねた。ヴァイオレットは「何を伝えたらいいのか?」と悩んだ。「手紙を書きなさい」とカトレアがアドバイスした。
島は戦争の傷が残る寂しい島だった。孤児院を尋ねホッジンズが「確かめてくる」とヴァイオレットを待たせて、院に入って行った。
ヴァイオレットは院化から出てきた子供たちから、ギルベルトが生きていて子供たちに好かれる先生。片目、片足、片手になっていることを知った。しかし、院から出てきたホッジンズは「武器のように使ったことを謝り切れない。ヴァイオレットを不幸にした!」と会うことを拒否したという。ヴァイオレットには受け入れられなかった
雨の降る中、ヴァイオレットは少佐の小屋を尋ね、扉越に話した。少佐の「幼い君を戦争に出し、両腕を失ったことを思い出すので帰って欲しい」と話すのを聞いて、「私が少佐を苦しめている。今の私には少佐の気持ちが分かります!」と扉の前に佇んでいたが、開けられることはなかった。これを見たホッジンズは「大馬鹿野郎!」と叫んだ。ヴァイオレットは雨に中、野を走り、泣いた!
その夜、灯台の一室に泊めてもらった。灯台が郵便社も兼ねていた。「ユリスキトク」という電報が入った。ヴァイオレットは「帰る!」と決心したが、3日はかかるというので、C.H郵便社からベネディクトとエリカが駆けつけ対応することになった。ヴァイオレットは知らせを待っていた。ユリスは死の直前にユカに電話で見舞いを断ったことを謝り、「ヴァイオレットの愛している人が生きていてよかった!」と話して亡くなったという。依頼された2通の手紙はベネディクトにより配達された。
ヴァイオレットは「少佐に生きて会えないと思っていたが、声を聞き、もうこれで十分」と郵便社に戻ることにして、子供たちにベネディクトへの手紙を託して翌朝の船に乗った。この手紙は、ギルベルトが島民のために収穫したブドウを山から港に降ろすために作ったリフトで彼の元に。(笑) そのとき、ディートフリートが訪ねていて「ヴァイオレットの気持ちを察しろ!」と説得していた。
読み終えたベルベットは、兄に「素直になれ!」と声を掛けられ、泣いた!そして出航した船を追って走った。
テイジーはエルカ島の灯台を訪れ、ここで沢山の手紙を代筆したドールがいたことを聞き、「両親に素直な気持ちを伝えたい」と手紙を書き、家路を急いだ。
感想:
館に入って来るコツコツという足音。オープニングはヴァイオレットが初めてマグノリア家の館に訪れた足音。そしてラストの足音はテイジーがヴァイオレットの足跡を探す旅を終えて帰ってきたもの。ヴァイオレットが亡くなり、電話が発達した時代になっても、ことばでは言えない手紙なら伝えられる「愛している」の伝え方があることを訴えています。SNSの今の時代だからこそ求められる手紙の役割ではないでしょうか!
作画がその時々のヴァイオレットの感情を表現していて素晴らしい。しかし、それ以上にディートフリートとギルベルトの兄弟愛、ユリスの父母や弟、さらに友人への感謝の想いが、ヴァイオレットがギルベルトに与える「愛」に全て繋がっているという、“脚本のうまさ”に感嘆しています。
この物語のキーは戦場シーンだと思っています。ヴァイオレットが少佐を思い出すシーンでは必ず戦場での別れのシーンが挿入されている。生かされて生還した兵士が亡き戦友の墓参りを欠かさない話はいっぱいあります。戦場は「生きることの意味を知る」ところです。
ヴァイオレットも生かされていることの意味、「生きて、人のためになりなさい」を知り、代筆の仕事を通して一層この思いが磨かれている。この作品にはこのことがしっかり描かれ、あの炎のなかで感じた京アニの人達の気持ちがしっかり出ているようで、他の人には描けない感情・表現があります。
ヴァイオレットがエラルテ島を訪ね、ベルベルトとの長い別れの空白を埋めていく作業にはっきり出ています。
どんなことがあっても“あんな”惨めな想いをさせてはならない、生きることの大切さを説いています。決して自分のことではなく、相手の幸せを願う「愛」です。このことに胸打たれます。京アニの優れているのは「深い相手への想い」だと思っています。
ヴァイオレットの少佐に当てたラストレター。「最後の手紙です。私が生きて誰かを思えるのはあなたのせいです。受け入れてくれありがとうございました。教えてくれ、ブローチありがとうございました。いつも側においてくれ、ありがとうございました。“愛している“をありがとうございました。少佐を愛しているのが”生きるみちしるべ“です。愛しているを知って、愛したいとは思いません。少佐本当にありがとうございました」。愛の本質を表現しています。
希望と命の大切さのメタファーである、大きな青空、海、夕日、花火が本当に美しい。これに音楽と声優さんの声の演技が被さり、すばらしい愛の物語になっていました!
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