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「母との約束、250通の手紙」(2017)原題「夜明けの約束」でなければ感動は味わえない!

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フランスの伝説的文豪ロマン・ギャリーの自伝小説「夜明けの約束」の映画化。WOWOWシネマ初公開で観ました。小説は未読です。

ロマン・ギャリーの経歴ウィキペディアによると、

1914年、リトアニアで誕生。ユダヤ系ロシア移民で、ポーランドで幼少期を過ごし、フランスに亡命、’35年に国籍を取得。’57’58年権威あるフランス文学最高峰ゴンクール賞を史上唯一2度受賞。外交官、映画監督、そしてプライベートでは「勝手にしやがれ」の女優ジーン・セバーグの夫と複数の顔を持ち、‘80年拳銃自殺を遂げた。等々・・。

物語は、

シングルマザーとして息子ロマンを育てるユダヤポーランド人移民のニーナ。息子が将来、軍人として活躍した後、作家として成功すると信じる彼女は、息子の才能を引き出すために躍起になる。ロマンは、そんな母からの過剰な愛と重圧にあえぎながらも、母の夢をかなえようと決意。成長したロマンは自由フランス軍に身を投じ、病で生死の境をさまよった時も、ニーナからの激励の手紙が届き続けた。やがてロマンはパイロットとして活躍し、執筆した小説が出版され作家デビューも果たすことになるが……。(映画.Com)

監督:エリック・バルビエ、脚本:エリック・バルビエ、マリー・エイナール。撮影:グリン・スピーカート、美術:ピエール・ランソン、衣装:カテリーン・ブシャール、編集:ジェニファー・オージェ。

出演者:ピエール・ニネ、シャルロット・ゲンズブール、ディディエ・ブルドン、

ジャン=ピエール・ダルッサン、キャサリン・マコーマック、フィネガン・オールドフィールド、他。

「男が戦うべき理由は3つ。女、名誉、フランス!」と宣う母親。息子の将来は軍人、作家、外交官と定め、息子を溺愛し叱咤激励する母親と、苦悩しながらも母親の敷いた道をひた走りしながら「自分を発見するという感動物語です!

あらすじ(ねたばれ): 

町の賑わいの中、妻レスリーキャサリン・マコーマック)がホテルで執筆中のロマンの部屋を訪ねるとロマンが倒れており「こんなところで死ねない、メキシコシティーへ行く」と言い出し、タクシーでメキシコシティーへ向かい、その車中で妻がロマンの原稿「夜明けの約束」を読み感動するというロマンの人生回想物語となります。

1924、ビリビュス(ポーランド)。降りしきる雪のなか、学校帰りの息子ロマン(10歳)は母ニーナ(シャルロット・ゲンズブール)に出会い「お前は将来自動車を手に入れる、フランスの大使になる」と抱きしめて婦人用帽子の訪問販売に出掛けた。ロマンが部屋で待っていると、そこに警官が訪ねてきて、「容疑は盗品の隠匿だ」と戻ってきたばかりの母と揉める。これをテーブルの下に隠れて見ているロマン。部屋を荒らされたニーナは悔しさの余り、ロマンを外に連れ出し、周りの家々に聞こえるように「この子が将来作家になる、勲章を貰う、フランスの大使になる。将軍になってロンドンで服を作らせる!」と叫び嘲笑された。ロマンが後に語るようにこの母親の無念さが彼を作ったシーンでした。

ニーナの“生活力”は、ユダヤと蔑まれてきただけにすさまじかった。自分は元女優だと言い、俳優崩れも男(ディディエ・ブルドン)を有名デザイナーに仕立て、“オートクチュール”開業のセレモニーを行って集客し繁盛した。そこでロマンに音楽を習わせるがその能力がないことが分かった。小室さん親子に似ていますね!(笑)ロマンが絵を習いたいというと「画家みたいに死んだ後に評価されても意味がない、生きてるうちに評価されるようになって!」と受け付けない。(笑)そこで母に生きているうちに名を挙げると小説家を志すことにした。

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移民だけにロマンには友達がいない。エスカルゴを殻ごと食べて、その数で彼女の気を誘うという遊び。ロマンは母親に負けない根性で食べる。(笑)それで彼女が出来たが、これが仇となって「売春婦の子」と虐められる。虐められたロマンに「母さんが侮辱されたら、担架に乗って帰ってきなさい!」と励ますニーナ。

ニーナの仕立屋商売も客の支払いが遅れ、遂に破産。回収に出向いて追い出される哀れな母親を見て悔しがるロマン。この辛い生活のなかで培われた母と子の物語であることを忘れてはならない。

新しい地を求めてフランス・ニースに引っ越した。

ニーナは没落したニコライ2世にゆかりの者だと偽り、アンティーク家具だと骨董屋に勧めるが、嘘だと見破られ(笑)、逆に骨董屋の物をホテルの中で売る店を任された。

こういう商売は元女優に向いていた。事業は成功し、ロマンのためにメイドを雇った。ロマンはこのメイド・マヌエットと初体験、その体位が変形69だった。(笑)これを見て怒るニーナに「人生を決められるのは嫌だ!」と抵抗した。ニーナは何も言わなかった。

年取った画家サレンバ(ジャン=ピエール・ダルッサン)がホテルに1年滞在してニーナを口説いた。ロマンは高血糖症の母には良いと思ったが、「画家は食わしてくれない」と断った。(笑) これを機に、母が生きているうちにと本気で小説を書き始めた。

ニーナはロマン(ピエール・ニネ)を小説家にするためパリの大学に入れた。駅頭での別れのシーン、集団就職を思い出しました。(笑)

ロマンは大学に入ったはいいが、車中で知合ったスウェーデン人女性に熱を挙げて一向に小説が書けない。(笑) やっと短編が認められ新聞に載り、これを見たニーナは“小説家になったと商売仲間に触れ回りその喜び方はすごかった。(笑)が、後が続かなかった!(笑)

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1938年8月、ニーナはロマンを呼び寄せ「ベルリンでヒトラーを殺す」と打ち明けた。(笑)ユダヤ人としての復讐心がこれほどに強かった。ところが「お前はひとり息子だ!」と動揺し暗殺計画は中止になった。

1938年11月4日、ロマンを空軍士官候補生学校に入った。ユダヤ人として生きるにはフランスしかない、この国を守るというニーナの心情からだった。ニーナには大きな誇りだった。

ところがロマンはユダヤ人ということで、300人の中でたった一人将校に昇進できなかった。ニーナに「校長の奥さんを口説いたからだ。彼女は美人だ」とその理由を説明するとニーナは「さすがだ!」と大喜びだった。(笑)

基地に戻った直後動員令が下った。「敗戦など許さない!」とニーナが激励にやってきた。大尉を見つけてプレゼントを渡す。このシーンに母親の気持ちがよく出ていた!

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1940年6月、ペタン元帥の演説「停戦を提案したい」を聞いて上司から「ド・ゴールがイギリスで自由フランス軍を作るから参加しないか」と誘われイギリスに飛ぶことにした。ところがニーナが血糖症で倒れたことを知り、ニースに戻り見舞った。彼が乗る戦闘機が炎上したので、ニーナの病がロマンを救った。彼はこう述懐しています。

担当医に「お前の母親だと思って診療に当たれ!」と脅迫して基地に戻ろうとするロマンに、病床のニーナが「イギリスに行け!」と声を掛けた。ロマンは単身、無断で戦闘機を持ち出して、イギリスに飛んだ。

基地のバーでポーランド兵士と喧嘩、決着は拳銃による決闘という恨み辛みの騒ぎを起こして収監された。が、ニーナの「何か月も書いてないね!」という妄想に悩まされ、小説を書くことにした。

アフリカ戦線にとばされ「白い嘘」を書き始めた。しかし書けない。女を抱いても立たない!(笑)そんな中で痴呆症の老婆に出会うと母を思い出し、部族まで送り届けた。蚊に刺されこれを拳銃で撃ったこと牢に入れられ、そこで母からの手紙を読み、焦った。牢から出て、ロンメル軍と戦うためにリビアに移動。トラックの中で小説を書いた。チフス野戦病院に入った

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母が訪ねてきて「息子はフランスを救い小説を書いてニースに戻って来ると皆に言っている。この体たらくは何よモーパッサンは梅毒でも描いた。死ぬのは許さん!」と怒る幻覚を見て、裸で病室を走り「軍に復帰させろ!」と叫んだ。

1943年8月アフリカ戦線からイギリスに戻り、母の写真を機体に貼ってフランス空爆作戦に参加していた。母の手紙に励まされ小説を書きまくった。そして長編「白い嘘」を完成し、英訳され出版されることになった。やっと成し遂げた、「自分は生まれ変わった」と思った。母からの手紙「覚えておいて、お前は大人もう私は必要ない。早く結婚しなさい!」を受け取った。しかし「「私への褒めの言葉がない!変だ!」と思った。「白い嘘」は母と私の2人の勝利だと思っていたのに。

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出撃して被弾し、出血して目が見えなくなったが、友軍機の無線誘導で、目標に爆弾を投下し基地に帰還した。「目が見えないパイロットの帰還は初めてだ」と称賛され栄誉勲章が授けられた。

パリが解放されロマンは小説「白い嘘」と栄誉勲章を持って、ニースの家に戻ったが母の姿がなかった。病院を訪ね、医者から「母親は3年前に250通の手紙を書いて亡くなった」と聞かされ、泣いた。

感想:

母親は亡命国フランスを愛しそのために息子に高い目標を課し、生きているうちに息子の出世を見たいと息子に掛けた愛情。これを何とは叶えたいという息子の苦闘。

ユダヤ人難民として蔑まれる母親を見た息子の“幼い頃の記憶”が母親の課した目標を達成させた最大の要因でした。

恵まれた環境の今を生きる人には「息子の人生を母が決めるのはおかしい、息子が可哀そう」と思うでしょう。しかしユダヤ人としての居場所を求めてフランスに亡命した背景を想うとニーナの想いも頷け、息子の課した目標が髙いだけに、ニーナはそれに見合う愛情を示したと思います。

物語は沢山のエピソードがちりばめられ、テンポよく綴られます。とてもユーモアがある。母親と息子のやることがどこか可笑しい。このユーモアこそがふたりを繋ぐ力だったかも知れない!

アフリカで幻の母に励まされて自分を取り戻し、イギリスに戻り、闘え!書け!と励ます母の手紙を見て、パイロットとして戦闘しながら小説を書くロマンの姿は母に“生かされていて”とても美しかった。そして映像が美しい!ザコンなんて姿はどこにもない!泣けた!

ロマン役は三人で演じられましたが、ニーナ役はシャルロット・ゲンズブールひとで演じ、怪物母さんに恣意した演技はすばらしかった!しかし、タイトルが悪すぎました!原題の「夜明けの約束」でなければ感動は味わえないでしょう

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