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「愛する人に伝える言葉」(2021)セラピーの仕方で、「死とは生きること」に変わる!

フランスの名優カトリーヌ・ドヌーブと「ピアニスト」のブノワ・マジメルが共演し、ガンで余命宣告を受けた男とその母が穏やかに死と対峙していく姿を描いたヒューマンドラマ。監督は太陽のめざめ」のエマニュエル・ベルコ。ということで観ることにしました!

監督:エマニュエル・ベルコ、脚本:エマニュエル・ベルコ マルシア・ロマノ、撮影:イブ・カペ、衣装:ジュディット・ドゥ・リュズ、編集:ジュリアン・ルルー ヤン・デデット、音楽:エリック・ヌブー。

 出演者:カトリーヌ・ドヌーブブノワ・マジメルセシル・ドゥ・フランス、ガブリエル・サラ、他。

2022年・第47回セザール賞でマジメルが最優秀主演男優賞を受賞しています。

物語は

人生半ばにして膵臓ガンを患ったバンジャマン(ブノワ・マジメル)は、母クリスタル(カトリーヌ・ドヌーブ)とともに、名医として知られるドクター・エデ(ガブリエル・サラ)のもとを訪れる。ステージ4の膵臓ガンは治せないと告げられ自暴自棄になるバンジャマンに対し、エデは病状を緩和する化学療法を提案。エデの助けを借りながら、クリスタルはできる限り気丈に息子の最期を見守ることを決意するが……。

40代にして膵臓癌のステージⅣに遭遇し、死を前にしてこれにどう向かい合うか息子そしてその母、治療を担当する医師、三者の物語です。

息子と母の愛の物語であるようであって、実は膵臓癌という難病のセラピーの在り方が大きな比重を占め物語になっていて、これがこの作品の特色です。英語タイトルは「peaceful」です。

見るべきはマジメルの演技、それに医師のサラ。サラが医師で演劇は全くの素人だという、これが驚きでした。


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あらすじと感想(ねたばれ:注意)

冒頭、ドクター・エデ(ガブリエル・サラ)は看護師とミーテングをしているシーンから物語が始まる。本作におけるエデの存在が大きいことを示しています。黒人女性看護師が「夫をひとりで死なせて何もしてやれなかった!」と悩みを打ち明けることに、エデが「死ぬ時を決めるのは本人だ!」と指導する。この言葉は物語の最後まで生かされる大切な言葉です。「患者にはちょっと重い言葉では?」と思えるのですが、これがあって初めて「患者への献身的な介護ができ、患者は生かされて死を迎える」ことが分かります。

四季の移り変わりで患者の癌症状段階を提示しながら物語が展開します。これは上手い筋運びでした!

バンジャマンは母を伴いドクター・エデの診察室に訪れた。エデはバンジャマンの話を聞いて、「膵臓癌のステージⅣ、治せるとは言えない!真実が大切だ!」と診断を下した。患部を押さえて症状を確認し、看護師のユージェニー(セシル・ドゥ・フランス)にも触らせ、化学療法を勧めた。バンジャマンは現実がよく呑み込めなかった。

エデは“真実として”明確に症状を伝える。「これに恐怖する患者に、しっかり寄り添う!」というのが彼のセラピーのやり方。「死に至る過程の生き方こそが大切だ!」という彼の哲学に基づくものです。

バンジャマンは売れない俳優。劇場で受験を控えた学生の指導をしていた。彼には「この年で何をも成し遂げていない、死ねない!」という焦りがある。この葛藤に彼がどう対峙するか、これがテーマです。

バンジャマンはエデの診断後、劇場で学生に“愛する形”を教える。これが実にエロティク!でこんな現場にいたら死など受け入れられない。(笑)学生相互の演技評価で、学生から「存在感のある演技だった!先生の存在感は?」と聞かれて答えられず、ショックを受けた。さらに第1回の化学治療を受けたが体の調子が良くない。ということで、エデの再診を受けた。

「化学治療開始は2か月後から」と渋るバンジャマンに、エデは「苦しむよ!余命は半年から1年だ、身体が耐えて死までの道のりが大切だ」と説得した。担当看護師はージェニー。

治療を続けながら劇場で演技指導を続けていて、慕ってくれるローラという子が現れた。

ドクター・エデの「患者をヒーローにするな!その心を聞け!」、そして「患者は家族と戦う!」という一見矛盾したような言葉を看護師たちに投げかけるミーティングから夏パートが始まる。患者本人と同じように家族のセラピーの必要性を訴えています。

バンジャマンは、ベッドでひとり音楽を聴きながら治療に堪え、劇場では学生たちの個性を引き出す指導で、彼らを褒めることも忘れない。そんな指導を続けていた。

母親のクリスタルが病院を訪ねると、休養室で患者たちが療法士の男女がタンゴを踊るのを見て、楽しんでいた。この病院には死の臭いがない!これがエデが行うセラピーのひとつ。しかし、そこにバンジャマンの姿がなかった。

クリスタルは、バンジャマンが若くして子供を作った時、彼の将来を考え子供を持つことに反対した。しかし、こうして彼が若くして亡くなるという局面に立つと大きな罪の意識が出てくる。ドヌーブの顔を見ているとマジメルが引かねばならなかった気持ちが分かります。キャステイングの妙!(笑)

クリスタルはバンジャマンの苦しむ姿に堪えられずエデに相談して「彼にとってポジティブになれば」と元カノのアンナに電話した。アンナは「今更!」と会うことを拒否した。が、息子レアンドルは「会いたい!」という。アンナはこれを許した。セラピー中のバンジャマンがどういう形でレアンドルと会のかというのもテーマのひとつ。

秋。バンジャマンは吐血し入院。もはや舞台指導はできなくなった。イチゴをつまむことも出来ないが、ダンスをみて楽しんでいた。

レアンドルが尋ねてきて、エデに会った。エデは「患者が愛する人に会うのはとても良いが、君は?」と問うと、「自信がない!」と帰っていった。患者の気持ちに立つという考えから、エデは止めなかった。

エデはバンジャマンの「目が覚めないのでなないか!」という不安を聞いて、心にひっかっていることに整理する「人生のデスク整理」と勧めた。まだ頭がしっかりしている時期にやるということ。これを先送りする人が多いですよね。(笑)

バンジャマンは「ない!」と返事した。(笑)するとエデは「ではまた!」と笑顔で「愛する人にこれだけは伝えること」と「 赦してくれ、俺は赦す、ありがとう、愛している、さようなら」の5つの単語を「覚えておくとよい!」を示した。バンジャマンは「言いにくい言葉ばかりだ!」と答えた。(笑)

バンジャマンはクリスタルと遺産について話すことになった。バンジャマンは「残すべき人に残す。自分で決める!」と今回は母に譲らなかった。彼は19年間、レアンドルのことを気にしていた。

学生のローラが見舞に来て、受験のための稽古をつけて欲しいとセリフを読むが、セリフを読む彼女の気持ちがバンジャマンには伝わらなくなっていた。ローラは泣いて帰っていった。

バンジャマンは「俺は誰にも必要とされず、誰も幸福にしなかった」と看護師のユージェニーに告白した。ユージェニーは感極まり彼を優しく抱擁した。

エデは電話でレアンドルに会う気持ちを確認し「その時が来たら知らせる」と伝えた。

遂にバンジャマンが昏睡状態となり輸血を必要とした。息子のレアンドルが「自分の名前を言わないで」というのを「真実だから伝える」と説得して採血した。バンジャマンへの輸血の際、「ストレスになる」と提供者の名前を告げず、そっと看護師ユージェニーに伝える時期を指示した。

冬。バンジャマンは弁護士に「息子は一度捨てたから、今会ったら2度捨てることになる」と息子には会わないが、息子に遺産相続することを伝えた。母クリスタルを劇場に走らせ、受験生へのメッセージ「全力をかけてやりとげろ!」を傳えた。学生たちがバンジャマンの死を惜しんだ。

バンジャマンはこのときベッドで「存在感が何であるかが分かった!学生に聞かせたい」と呟いていた。

音楽療法士にギターを弾いてもらった。隣のベッドの男がこれに踊りだし、エデとユージェニも駆け付けて踊った。読んでいた本が手から外れた。死という空気は、そこにはなかった!

母親クリスタルが「延命処置を!」とエデに求めると「彼はあなたを心配させないよう断った。こんどはあなたが受け入れる番だ!癌で亡くなることを許すことです。死んでいいというのが最大の赦しです」と説得した。

バンジャマンはクリスタルに5つの言葉を伝えた!

ドクター・エデは眠るバンジャマンに「君はやり遂げた!俺の誇りだ」と伝え、姪の結婚式に出向いた。ユージェニーが「貴方の息子さんの血があなたの血管を流れている」と伝えると、バンジャマンの目から涙が流れた!

クリスタルの見送りと音楽療法士が奏でるバンジャマンが好きだった曲の中で、バンジャマンは息を引き取った!

そこに息子のレアンドルが飛び込んできた!

まとめ

バンジャマンは眠るように亡くなった。血管を流れる息子レアンドルの血液の暖かさの中で、また母クリスタルを通して演劇の学生たちに遺言が伝えられ、「存在感とは何かが分かった」と呟いて亡くなった。バンジャマンはおそらく舞台に立つ日を夢みていたでしょう。「死とは生きることだ」が伝わる作品でした。

バンジャマンと母クリスタル、息子レアンドルに治療医師エデ、看護師ユージェニーが絡んでくるラストシーン。感動もしましたが、出来すぎでしたね。(笑)

セラピーに関わる医者と看護師の援助、家族の協力が如何に大切かが分かる作品でした。エデの吐く言葉、「死は患者が決める」「家族と戦え!」「人生のデスク整理」「音楽療法」「患者の死を赦す」等の言葉が生きた作品でした。

マジメルが日に日にやつれ、憔悴していく様を見事に演じました。また、強い母親だが息子を失う寂しさを自然な演技で見せてくれるドヌーブも凄かったが、常にバンジャマンの傍で言葉はないが愛情一杯で接するファランスの佇まいがよかった。

そして終始笑顔のガブリエル・サラ、常日頃医師としてやってきていることを演技にしただけという「これは真実だ!」と作品を保証する演技でした。

「死ぬ時は自分が決める」、そして最後に伝えるべき5つの言葉は覚えておきたいですね!

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