映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「言の葉の庭」(2013)人生を長い間温めてくれる特別な一瞬 

f:id:matusima745:20190830140840p:plain
「天気の子供」」(2019)のなかで、帆高と陽菜がホテルに泊まるシーン。このシーンについて監督は、「誰の人生にもそういう一瞬があるはず。その先の人生を長い間温めてくれる特別な一瞬、これを観客に経験して欲しかった」と明かしています。

3人はやっとホテルに宿泊することになると、帆高は「神様もう十分です。なんとかやってゆけます。このままにしてください」とやっと見つけた安堵に幸せを感じ陽菜に指輪を渡した。帆高は陽菜と泊まれることに胸が熱くしていると、陽菜が「夏美さんからあなたは雨を止める人柱と言われた」と片肌脱ぎ「晴れ女になると肌が透明になっていく」と訴える。帆高は「俺が稼ぐから、元の身体に戻る」と抱いてやる。とても切ないシーンでした。

「天気の子」(2019)この世界で起こることにくよくよするな!前に進め - 映画って人生!

言の葉の庭」では、

年上の女性に憧れ、恋したが、彼女に愛される男にはなれていなかった。愛するには、力が欲しいと思う一瞬。この一瞬を知って、男は大きく育っていくと思います。一方、相手の女性については結末で・・・。


靴職人を志す15歳の高校生タカオは、雨が降るといつも学校をさぼって公園で靴のスケッチに熱中していた。そんなある日、彼は27歳のユキノと出会い、雨の日だけの再会を繰り返しながらお互いに少しずつ打ち解けていく。タカオは心のよりどころを失ってしまったユキノのために、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作ろうと決心する。
7月の大雨の日。雨に濡れたふたりはユキノのアパートで、その一瞬の時に出会った。タカオは・・・。

感想(ねたばれ):
雨に濡れる公園、走る電車。「こういうことを知らなかった、制服を濡らす他人の傘、誰かのスーツに沁みついたナフタリンの匂い、背中にくっ付けられる体温」と電車の中のタカオ。
新宿駅に降りて、空を仰ぎ、「空の匂いを連れてくる雨が好きだ」と地下鉄には乗り換えず、雨がなかのビル街、交差点、歩道、緑が濃い公園に。赤い花、そこにひとり女性がベンチに。雨の音、滝水。タカオは靴のデザインを考える。チョコレートでビールを飲む女性。「どこかで?」と声を掛けた。「いいえ」と彼女。雷が鳴り、赤い傘を開き、短歌を「雷神の少し響みてさし曇り雨も降らぬか君を留めむ」を口ずさみ去って行った。

タカオの後を追うように“雨”、電車、ホーム、ビル街、道路、交差点、公園の絵が映し出される。美しい詩のような映像です。

タカオは兄と生活しているが、兄が恋人との生活で出て行くので、ひとりで生活することになる。家事もうまくこなせる子。
雨の日、午前中だけ公園に。公園で知合った女性の足をスケッチ、靴職人になることを話すようになった。あの人にとって俺は十分ガキに見えるだろうと。

雨のホームで、ユキノはどうしようかと悩み、公園にやってくる。タカオが朝ごはんを一緒にと弁当のおかずを彼女に差し出しおかずの交換。

ユキノが元彼に電話。「ゆっくり休め」と彼が言った。

f:id:matusima745:20190830141218p:plain
7月、彼女が靴の絵本をプレゼント。タカオは「いま靴を作っている」と話す。鳥のさえずり。彼女の足の寸法を取る。明るいそらから雨が吹き付ける。足の大きさをノートにとる。
「私ね、うまく歩けなくなった」とユキノ。タカオは「このひとのこと、何も知らないが、どうしようもなく惹かれていく」とつぶやく。夕日のビルの風景が美しく見えた。

梅雨明け宣言。まるでスイッチは変わったように天気になる。「梅雨はあけて欲しくなかった」とユキノ。

兄が家を出て雨の降らない日ばかり。あの場所にいく口実のないままに夏休みが来た。

タカオは夏休みにほとんどバイトを入れ、専門学校の学費のたしにと働いた。あの人に会いたいが、あのひとが沢山歩けるように靴を造ることに決めた。

9月、教室。学友と話していて、あの人に出会った。先生は勝手に先生を好きになった先輩の彼女に逆恨みされ随分と追い込まれたと聞く。

タカオは先輩のいる3年生の教室に入った。「なんだこの1年生!あのババアに惚れてんのか」と先輩に殴り返された。

f:id:matusima745:20190830141252p:plain
公園の池、すり合う電車。“雨”を待っていた。公園に来るとそこにユキノ先生がいた。「雷神の少し響みて降らずとも我は留らむ妹し留めば」と先生が話しかけてきた。雨が降ったら君はここに留まってくれるだろうか?それに対して、雨なんか降らなくても、ここに居るよという万葉集の歌。タカオは返事が出来なかった。

「ごめんなさい古典の先生としっていると思って。その傷どうしたの」とユキノ先生。突然の雷に雨。すごい雨。ずぶぬれになった。

先生のマンションでタカオが料理して、ふたりで食べた。「いままで生きてきて今が一番幸せかもしれない。ユキノさんが好きなんだと思う」。
ユキノさんではなく先生でしょう!わたし来週、四国に引っ越すの。私は、あの場所で、一人で歩けるようになる練習をしていたの、靴がなくても。今までありがとう」。

大粒の雨が降る出す。タカオは「俺、帰ります。ありがとうございました」と部屋を出た。

ユキノはタカオが部屋を出てから、タカオと弁当を食べた日のことを思い出し泣いた。

タカオは部屋を出て、公園で俺が作った弁当を一緒に食べたことを思い出し、また、あの詩を思い出していた。ユキノが部屋を出て階段を駆け降りると。そこにいたタカオに居た。
「ユキノさん、おれ、やっぱりあなたのことが嫌いです!朝からビールを飲んで訳のわからない歌をしゃべり、自分のことは何も話さないくせに人のことばかり聞き出して俺のことを生徒と知っていたんですよね!失礼ですよ。こんなになって。あんたが先生なら、靴のことなどしゃべらなかった。出来っこない、かないっこないと思うから。どうしてあなたはそう言わなかったんですか。適当に付き合えばいいと思っていた。俺がだれかに憧れたって、かないっこないって最初から分かっていたんだ。ちゃんと言ってくれよ!あんたはいつも関係ないという顔して生きていくんだ」。

これを聞くユキノの顔は涙で濡れていた。ユキノはタカオに駆け寄り抱いた。「学校に行こうとしてたの。でもどうしても怖くて。あの場所であなたに救われていたの」と大声で泣いた。

虹のなかで空が晴れてきた。晴れた帰り道、あかるい雨のなかを帰宅。夏が終わり冬が来て、タカオは「あの人はどうしているのかな!」と思う。

エンデイングのあと、雪が降り積もる公園。タカオが靴をベンチに置き、「歩く練習をしていたのはきっと俺も同じ。もっと遠くまで歩けるようになったら会いに行こう」とと呟いた。いずれこの体験は人生の宝物になりますね!

ユキノ先生に起こったことは理不尽。ナイーブ過ぎる先生にとっては耐えられなかったようですが社会ではよくあること。一瞬ではあったが、タカオとの出会いは彼女にとって大きな人生の転機。先生の先生は生徒、映画「鈴木先生」(2012)のように生徒からしっかり学ぶ先生を目指して欲しいです。

1時間足らずの作品のなかで、数分の「その一瞬」、美しい映像と歌で、とても記憶に残るものでした。
                                                   ****


『言の葉の庭』 予告篇 "The Garden of Words" Trailer