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「ハクソー・リッジ」(2016)

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本作、メル・ギプソン10年ぶりの監督作。「沈黙=サイレンス」(2016)で高く評価されたアンドリュー・ガーフィールド主演です。「第2次世界大戦の激戦地沖縄前田高地(ハクソー・リッジ)で武器を持たずに、たった1人で75人の命を救った男(デズモンド・ドス)」の話。

本年度アカデミー賞作品、監督賞、主演男優賞、音響編集賞など6部門にニミネートされ、編集賞、録音賞を受賞。くしくも6月24日沖縄戦終結日に鑑賞することが出来ました。

戦争観や政治的な企図を描くのではなく、「武器を持たずに戦闘に参加したデズモンド・ドスの生き様」が描かれ、彼の強い愛国心と武器で相手を殺傷するのではなく命を救うことに徹し、自分に課した使命をやり遂げるという勇気ある兵士の行動に心打たれます。とは言え、生々しい残虐な戦闘シーンに「戦争はしてならない」という反戦の気持ちを強くしてくれ、われわれは米軍の戦闘意識を舐めていたという情報不足の反省もあります。

物語の前半では、彼の生い立ちから軍が「良心的兵役“拒否者”」ではなく“賛同者”として認める過程がしっかり描かれ、何故彼が武器を持たずに戦闘参加できたかを明らかにしています。この時代にあって、多民族・多宗教でそれぞれの心情に配慮する必要性から米国には「良心的兵役拒否者」制度が存在していたことに驚きです。

後段では、沖縄戦のなかでももっとも熾烈を極めた浦添城址の南東に位置する150mもの切り立った崖:ヘクソ・リッジ(前田高地)の戦闘行動が描かれ、彼の勇気がどれほどのものであったかがわかるように、メル・ギブソン監督の真骨頂でもあるリアルな戦場描写を見せてくれます。戦場の生々しさをグロの許容範囲ぎりぎりまで描き、これまでのいかなる戦争作品の苛烈な戦闘シーンにも劣らない迫力です。

ラストに生前のデズモンド・ドスと戦友たちがこの戦闘を回想します。デズモンドの「死んだ兵士こそ英雄だ」と語る謙虚さに、また「水筒の水で目を洗ってもらって見えた(デズモンド・ドス)笑顔が最も美しかった」と語る兵士の感謝の言葉にデズモンド・ドスの人と成りを見ることができ、彼は真の勇者です。
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デズモンド・ドスを演じるアンドリュー・ガーフィールドがすばらしいです!
ナイーブな青年の佇まいをみせ、いかなる迫害にも耐える意志力そして戦場を駆け巡る冷徹さを持つ男、そこでの笑顔がとても美しかったです。
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物語、
冒頭、ハクソ・リッジにおける戦闘、砲弾で身体が吹っ飛び、至近距離からの射撃戦、担架で運ばれる負傷兵、炎に包まれた日本兵など生々しい戦闘シーン。「神は疲れた者に力をくれる。主を信じれば力をくれる」のナレーションで物語が始まります。
16年前のバージニア子供のころのデズモンド・ドスは弟と森を駆けて岩場に登る闊達な子。兄弟喧嘩でデズモンドがレンガで弟を殴ったことに対する父親トム・ドス(ヒューゴ・ウイーヴィング)の厳しい仕置き。父親は第一次世界大戦で心に傷を負い、酒に溺れ、母バーサ(レリーサ・パーマ)に暴力を振るう様を見て過ごすデズモンド。キリスト像を見ながら「人の命を奪う以上の罪はない」と教えられます。
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これから15年後、
交通事故で負傷した子を止血処置して病院に搬送、そこで看護師ドロシーシュッテ(テリーサ・パーマ)に出会い、献血を申し出たり医療知識を得ることで交際が始まり恋に陥る。映画館で「リクルードガイド」「ヨーロッパ戦線」を観て、弟や友人が出征するなか父には内緒で、「衛生兵なら自分も国に尽くすことができる」とドロシーに打ち明け、陸軍に志願します。ただし彼女とは、訓練が終了したときに、結婚することを約束します。
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フォート・ジャクソン基地で訓練を受けることに。ナイフを操る者、マッチョな男、ロープを投げる男、ハリウッドと呼ばれる男、いずれも男らしい入隊者と出会います。訓練担当はパウエル軍曹(ウインス・ヴォーン)、「急げ整列!」と早速訓練開始。訓練はこの種軍隊訓練に出てくる張り切り軍曹により、綱の結び方・障碍物通過訓練などがユーモラスに描かれます。
いよいよM1ライフルの貸与、デズモンドがこれを拒否する。パウエル軍曹はグローヴァー大尉(サム・ワーシントン)に「良心的兵役拒否者」だと報告します。デズモンドは「違う、自ら志願した。銃で人を殺すのが嫌だ」と主張しますが「人を殺すのが戦争だ」と聞き入れられない。
射撃訓練時、パウエル軍曹が皆に彼は良心的兵役拒否者だと紹介し「軍のためにならないので去れ」という。隊舎に戻り臆病者と揶揄される。

大佐に呼ばれて事情を聴取され「銃に触らないのは神の教えか、戦争では状況が違う。敵が攻撃したらどうする」と注意され、雑務兵として取り扱われ毎日トイレの掃除をさせられる。
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パウエルが「弱いやつがいると弱い隊になる」と30m走をやらせる。これに仲間が反発して「除隊しろ!」とリンチが始まる。
朝の点呼で、腫れ上がったデズモンドの顔を見て理由を聞くと「転んだためだ」と言う。「もういい、恥じるな!」と信念を通そうとするデズモンドの態度を認める。

休暇申請の日、デズモンドは銃の訓練が終了してないので休暇付与できないと言われる。「衛生兵にするには訓練が必要だ。ライフルを扱え、終了にしてやる」とパウエル軍曹。しかし彼は拒否する。「それでは戦争が終わるまで営倉だ!」
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グローヴァー大尉が再度デモンズの意志を確認します。「敵に攻撃されたらどうするんだ」「負傷者を助けます」「お前をやめさせる」。

休暇時に結婚する約束だったドロシーは教会で待っていますが彼がやって来ない。そこでキャンプにデズモンドを訪ねます。何故来なかったのかを訪ねると「人を殺してないのに刑務所に行けと言われている」と話します。「プライドが邪魔してるからよ。銃を持って撃たなければいいのでは」と銃を持つことを勧めますが、「俺は信念を曲げては生きていけない。そうすると君も軽蔑するだろう」という。ドロシーは「あんたの好きなところはそこ、変わったところ。信じている」と言って帰っていく。
ドロシーはデズモンドの父トムを訪ね「何を言ってもだめ、でも刑務所に入って不名誉な除隊は望まない」と訴えます。

デズモンドが軍事法廷で「自分の仲間は戦場で死んでいる。自分だけが戦場に行けないことに耐えられない。皆は殺すが自分は助けることを任務としたい。ひとりぐらい助ける者がいたっていいではないですか」と訴える。そこに、父トムが退役軍人として軍装で法廷に出廷しようとしますが制止される。そこで一通の文書「良心的な兵役拒否には武器の所持の否定も含まれている」という裁判例を手渡します。この訴えにより法廷は「戦火に飛び込むのは自由だ」とデズモンドの言い分を認めます。そして、デズモンドとドロシーは結婚します。

19455月、OKINAWA
デズモンドの所属部隊(77歩兵師団)が沖縄に上陸、96歩兵師団と部隊交代してハクソー・リッジを攻撃すべく急進中。交代部隊の車両には死亡兵士が満載、日本兵の遺骸もみられる。異様な風景だ。鉄帽をとって敬意を表す。
休憩中、96師団の兵士から「ハクソーは6回やったが全部失敗した。日本兵は必至だ、絶対諦めない」と聞かされる。そしてハクソー・リッジの前面に立つ。
前田高地は、日本軍陣地の中核、これを抜かれたら32軍司令部が潰れる。崖を利用し壕で強化した陣地は敵艦砲射撃にも耐えうる。米軍はこれを撃破しなければ前進できない。このため、歩兵をもって崖を登り潰しにかかる。
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艦砲射撃が始まる。すざましい音響、アカデミー賞受賞の迫力です。ベトナム戦争とは全く異なる戦場音に注目です。
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艦砲射撃が終わると、梯子を利用して崖を登り、そこで見る光景は遺体の山、内臓がはみ出し、ネズミが食いちぎり、うじで腐敗し、地獄だ。これを踏み越えて前進。猛烈な日本軍の機関銃の射撃。敵が見えない、遺体を盾に前進、めくら撃ち。火炎放射器で火炎を放ち、燃え上がる日本兵。もう地獄図だ。戦場を生々しく描かれています。イメージ 10
デイモンズは「衛生兵!」という叫びに走り廻る。武器などいらない、「俺が家に帰してやる」とモルヒネを打ち続けます。トーチカを炸薬で吹っ飛ばしたところで戦場に静寂が戻る。中隊長の「今日はここまで」で崖上に進出した部隊はその場に穴を掘り防御態勢に。デイモンズは戦場を捜索して、生きている兵士を探します。
夜になり、ミステイ・ライカー(ルーク・フレイシー)と同じた穴で過ごす。異様な音を確認すると遺体に集るネズミの大軍に驚く。眠っていて日本軍に夜襲される夢をみて怯える。ミステイに「母が父にぶたれたとき耐えられなかった。拳銃を父に突きつけたが、撃つのは止めて心で撃った。そして二度と銃は持たない。汝殺すことなかれを守っている」と武器を持たないわけを話します。

早朝、日本軍の攻撃が始まる。すざましい白兵戦が始まる。頭や腕が吹っ飛ぶ。キャンプでよくいじめられたミステイが受傷、担ぎ上げて安全な場所に移動する。「ハクソーから撤退」の命令が出る。地上部隊援護の艦砲射撃が開始される。
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はしごを利用して部隊が後退を始めるがデイモンズが「俺は何をするべきはわからない。声を聞かせてください」と祈っているところに「衛生兵」という叫びが!デズモンズは戦場に戻り生存者を探します。そして崖から負傷者をロープで下におろします。
「上にデズモンドがいる」ことを知った連隊長が艦砲の射撃中止を要請します。台上では日本兵が遺体を銃剣で刺して廻っている。デズモンドは生存者を土に埋め、遺体の下に隠れます。つらいシーンです。日本兵が見えなくなってから土を掘り起こし崖まで運びロープで下におろします。日本軍の壕に入ると日本兵の受傷者に会う。「サムライ、大丈夫」とモルヒネを打ちます。夜間になり、手をロープの摩擦で血だらけにしながら崖から負傷兵を降ろします。
野戦病院では「誰がやっているんだ」とデズモンドの行動が話題になり始めます。グローヴァー大尉がこれを聞いて「あの臆病者が?」と驚きます。

朝になり、最後の救出者としてパウエル軍曹の救出にかかります。軍曹を携帯天幕に乗せ、軍曹が撃ちまくり日本兵を寄せ付けないようにして、崖まで走り、軍曹を背負いロープを使って降下。これでデズモンドは救出任務を終えます。
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野戦病院で休養をとったのち再びハクソー・リッジの攻撃に参加します。激しい白兵戦が続き、日本兵が降伏すると見せかけて射撃を仕掛けます。投げられた手りゅう弾を足で避けようとして負傷、仲間によって担架で戦場を後にします。

このあと日本軍の状況として32軍長勇参謀長自害のシーンがありますが、こらはちょっとオーバーランです。

ラストシーンとしてご本人と戦友がフィルムで登場します。デズモンドはたったひとりで75人の命を救った功績で、良心的兵役拒否者として、アメリカ史上初めて名誉勲章が授与されました。彼はこのことについて「真の英雄は土の中にいる」と語っています。
デズモンドが偉業を成し遂げられたのは、強い愛国心と信念です。これで死の恐怖を乗り越えることができたと思います。デズモンドの勇気に感動です。

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